2006/07
「定年」とは何かライフビジョン学会


コーディネーター
石山浩一/紡績会社定年後自営業開業 62歳
 ライフビジョン学会では「サラリーマンの定年」について研究している。 6月17日土曜日、パネルディスカッション「定年とは何か」を開催した。会場はしばしば笑い声に包まれ、多彩な話題が行き交った。
 紙面の都合でその一部を紹介する。


 石山 定年は人生の一丁上がりではない。会社から解放されてハッピーリタイヤでありたいが現実は、不安が先にたつ。どうすればハッピーリタイヤになれるのか、今日は定年について一緒に考えたい。まず、定年の持つイメージを伺います。

■ 最近、悪魔のささやきが ■
 篠田敏道(運輸会社半定年 系列会社で週4日勤務 59歳)
 定年後の今、私は「国語・算数・理科・社会・体育」の生活をしている。国語は読書。図書館の返却口から、誰かが返した本をそのまま借りてくる。いろいろな本があっておもしろい。社会は町内会でマージャン。明治大学の社会人大学通学、成田山、熊野を見たり自分史を書いたり。数学・算数では、退職金は個人年金にして財形もばっちりだから100点満点。理科は家庭菜園、土壌の研究からやっている。保健体育は歯の検診。スポーツはテニス・ゴルフ。家庭科は炊事洗濯。
 この時間割に自画自賛していたが、最近、「悪魔のささやき」が聞こえてきた。完璧なスケジュールに見えるが本当は何がしたいのか、目的は何なのか。おいしい料理も毎日では飽きる。楽しいことも毎日では本当に楽しいの?好きなことだから全部楽しいが、その本質は全部「気晴らし」でもある。それでいいのか、と。
 答えのひとつは、何か仕事をしたら、というものである。会社は63歳まで雇用延長となり、シニアセンターでの就労を勧める。私は高齢期の働き方のひとつとして、人材の集め方から仕事の仕方、人の使い方まで、自分たちで考えて働くスタイルを提案してみたい。私のポリシーはネクタイ無し、名刺なし、現場で客の反応を直接知ることの出来る仕事をしてみたい。
 まあ、何をするにしても目的を明確にしないとだめだろう。仕事も、目的はカネなのか、飲み友達探しか、自分の腕試しか、暇つぶしか。遊びも、社会的にかかわりを持たないと辛いのかなと思う。

■ 人生の定年もある ■
 君川 治(電機会社定年 無職遊び人 68歳)
 私を本日の事務局が『無職・遊び人』と紹介した。どうせ遊び人ならばここに来なければ良いのだが、根がまじめなので。(笑)『無職』も『遊び人』も定年になった人間にはグサッと来る言葉だ。
 辞書では遊び人は、仕事をしないでぶらぶら過ごす人という。私が今やっているのは、仕事はしていないがそれなりに楽しいから、遊び人ではない。
 定年退職者は本当に無職なのだろうか。時々展示会などで入場券のアンケートに「職業」欄がある。「無し」で持って行くと入れてくれない。無職とは仕事の能力があるのにやらない人、若いのに仕事をしない人などと辞書にある。「自由人」も違うし、定年退職者の呼称をぜひ、考えてほしい。
 さて、私は会社では34年間仕事をし、57歳で定年、次の会社で8年仕事をした。66歳になり、元気だからもう少し仕事をという声もあったが、もうこの辺でいいところかな、と退任した。私には2年間のソフトランディングがあったから、そこから今まで、会社に行きながら他のことを少しずつ始めて、定年を意識することなく楽に来られたと思う。
 会社に定年があるのと同じ様に人生にも定年がある。仕事には定年の無い人もいるが、人生の定年は全ての人に必ず訪れるシビアなもの、これに気づくと考え方が変わる。人生は有期限だから…
 会社では忙しかったが今も忙しい。手帳は予定が一杯だ。ということは在職中に自分のやりたいことを犠牲にしていたことでもある。定年後は非常に楽しいのである。

■ ライフワークの計画を立てて ■
 永野俊雄(流通グループ会社定年 大学講師 70歳)
 60歳代が第一の定年とすれば70歳の今年は第二の定年だと、自分の中で区切りを作っている。60歳になったら何か勉強したいと考えていたので、青山学院大学大学院の生涯学習論を履修していた。60代歳後半は関連会社の監査役をしていたが、毎日出勤する必要がないので大学の講師を始めて、今年の3月まで二つの大学講師をやってきた。第一の定年はちょうど飛行機でトランジットする感じで、それまでの流通業から大学での教育、そのための勉強・研究の仕事にスムーズに移った。
 今年の3月、非常勤講師が定年になり、定期的に通うことはなくなった。今は家にいる時間がかなり長くなり、あっ、定年なんだなと強く感じている。
 50歳代に一度、ライフワークを何にするかを自分なりに整理して、ライフワークのテーマを決めたことが、第一の定年後の10年間、自分のやることにぴったりつながってきた。70歳からはいま、自分の生き方を整理しながら、どんなことをやろうかと計画を固めてきているところだ。

■ 鳥かごから出て野生に戻れない ■
 大瀬直純(電機メーカー現役人事部長 51歳)
 定年間近の方を拝見すると二種類ある。楽しみにしている人と、なんとなく不安めいて、仕事にも身が入らない方と。
 会社とは「鳥かご」ではないかと思う。日本の会社は各社独特の社風、風土を持つ鳥かごで、ちょっと外の空気を吸って、元の鳥かごに戻ってくる、という習慣はないから、野生に戻るのが不安なのではないか。60歳になると『無理やり首切り制度』の定年。今年4月からスタートした高年齢者等雇用安定法に伴う処遇を除けば、野生に戻る訓練がないのだろう。
 私の定年のイメージは、無理やり「鳥かご」から出される瞬間。したがって「鳥かご」に行ったり来たり出来るメンタリティを持てば、不安があってもやっていけるのかな、と思っている。個人的には定年を心待ちにしている。人事部長などあまり楽しい仕事ではないし。(笑)

■ 希望定年は何歳ぐらい? ■
 石山 年金の支給開始を別にして、自分としては何歳定年が良いと考えるか。
 篠田 定年は牛乳の賞味期限と一緒だ。賞味期限は企業が勝手に決める。定年が無ければいつまでも働くから困るし、どの辺が妥当なのか。55歳ぐらいなら、時間も体力もある。経済や家庭の都合もあるが、あえて自分が選ぶとすると55歳かな。
 君川 自分が会社で何をしているかによる。会社でイスの大きさを争う人や名刺の肩書きを気にする人は、会社にいないと達成できない。65歳定年で42年間の会社生活、寿命80歳としてあと15年。15年というのは長くはない。もう少し経済的に余裕があれば、63歳というのはいいところなのかと。
 永野 何に生きがいを感じるかは一人ひとり違う。例えば仕事が生きがいであって、現役時代はその人にあった仕事で、それが好きで、ライフワークになるものであれば年齢はエンドレス、年齢制限撤廃が良いだろう。そうでなく家族のため、お金のために働く人ならば、60歳で別な道を歩んだほうが幸せだと思う。
 大瀬 会社の立場は勝手ながら、個人別制度が作れないので一律になる。60歳に伸びたときも辛かっただろうが会社の定年に左右されないよう、日ごろの準備が大切だ。
 法改正で経済的に困っていなくても65歳まで働けるようになったので、新たな社会の接点を探しに出るより、慣れ親しんだ人と仕事をするほうが良いかもしれない。
 当社の再雇用制度は一旦60歳で定年となり、契約社員で65歳まで働ける。基本的には同じ職場で同じジャンルの仕事に携わっていただくのだが、60歳で無理やり2週間の有給休暇を取ってもらう。今までと違いますよ、定年が延びたわけではないですよ、『定年を迎えて再雇用』なのですよと気持の切り替えをしてもらう。職場も、今までいた人が2週間いなくなることで、再雇用なんだなと認識してもらう。
 会場から 継続雇用する場合、人事部としてはやる気と能力、どちらを優先しますか。
 大瀬 やる気ですね。能力は後から付いてくる。やる気があれば周りにも働きかける、動いていただける。いろいろな仕事を頼みやすい。

■ 定年延長、受け止め方さまざま ■
 石山 定年間近な人のタイプが二つという、その特徴は何か感じますか。
 大瀬 当社の社員は代々持ち家、定年になって住宅ローンも子供の教育も終わっている、経済的に恵まれているのだが、楽しみ派と不安派の2パターンだ。
 改正高齢法に伴う定年延長で、なぜか金額にこだわる方がいる。自分の仕事の内容そっちのけで幾らもらえるのかという人。一方いくらでも良い、今までは人のマネージメントはいやだったから、それの無い仕事が良いなどと、仕事の質にこだわる方。
 技術系はカネよりポジションにこだわる。営業で腕のある方は別会社で腕試ししたいという人もいる。仕事をするにしても、目的を持つ人のほうが元気な気がする。やることないから会社に来る、カネにこだわって仕事をする人、再雇用制度があるので金が入るからただ単に働く、会社に往復するという人には覇気が感じられない。
 石山 定年延長で賃金はダウンするが、それで延長を辞める人はいますか。
 大瀬 辞める人は金ではない。やりたいことがある人、目的意識を持っている人だと感じている。

■ 気になる、妻の目 ■
 石山 定年離婚が話題だ。妻の自由がなくなってしまうのもきっかけのようだ。去年離婚件数が減ったのは、来年から年金分割が始まるから待っているのだとか。
 永野 テレビドラマ『熟年離婚』は全部見ました。家内はいろいろな場面で、そうなのよ、男の人ってこうなのよと言っていたのでいろいろ不満があるのだろう。(笑)妻宛の電話に私が出ると、妻は相手に「私が先に電話に出なくてごめんなさい」と言い訳している。相手にも、亭主が先ではかけにくくなるのだろうか。微妙なところがありそうだ。
 離婚問題に詳しい参加者の意見 離婚が多いのが20代。次は60代。熟年では、夫がこんな人だとは思わなかったというのが多い。接する時間が長くなるのでガマンできない。中年離婚もたまにあるが、たいがい異性関係が原因だ。
 来年から夫の年金が半分もらえるから離婚訴訟を取り下げて、来年出しなおすという妻もいた。マスコミも悪いが年金はそんなに多くない。婚姻期間の最高でも1/2が、離婚した妻が獲得する年金だ。それならもう少し我慢して、遺族年金のほうがよほど良い。(笑)
 石山 話題はまだまだ広がるがこの続きは次の機会で。ライフビジョン学会では引き続き、勉強の機会を提供していきたい。
本日はありがとうございました。(拍手)







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