2007/12
パーティ報告「ハチドリのひとしずく」ライフビジョン学会



今回のパーティには、以下の会社・団体の皆様にご支援いただきました(敬称略)
 NTT労働組合上信越総支部/老松酒造(株)/(財)全国勤労者福祉・共済振興協会/(株)高峰楽器製作所/帝国ホテル労働組合/日清紡労働組合/三菱電機システムサービス労組/写真提供は有限会社ランダム








































































































ハチドリのひとしずく
「光文社・監修;辻信一」
この物語は南アメリカの先住民に伝わるお話です。

森が燃えていました。
森の生き物たちは われ先にと 逃げていきました。
でもクリキンディーという名の ハチドリだけは
いったりきたり くちばしで
水のしずくを一滴ずつ運んでは
火の上に落としています。
動物達がそれを見て
「そんなことをして 何になるんだ」
といって笑います。
クリキンディーは こう答えました。
「私は、私にできることをしているだけ」



 12月8日土曜日、新宿京王プラザホテルのメインバー「ブリアン」で開かれた12回目のチャリティーオークション・パーティは、おかげさまで388,000円のカンパ金をお預かりすることができました。このカンパ金はモンゴル・ドルノゴビ沙漠で植林活動を続けるNTT労組群馬に預託し、沙漠の緑化に役立てていただきます。
 今年も皆様、本当にありがとうございました。



【モンゴル植林同行記事】クリック


こんなお品をカンパいただきまして
 毎年12月が近づくと、ライフビジョンにはお付き合いのある皆様からさまざまなカンパ品が贈られてきます。このチャリティオークションパーティは1995年、阪神淡路大地震のときにライフビジョンの呼びかけに応じた皆様が、ご自宅から「お値打ち」な品々を携えて集まり、それをお互いに買いあってカンパ金を作ったことが始まりでした。
 皆様からのカンパ品の中で今年、事務局の目に新しかったのは「ワインの栓」と「シャンパンの栓」でした。提供者のYaさんがブルゴーニュとシャンパーニュ地方で購入したもので、特にワインの栓は小さな美術品の風格です。飲みかけのワインやシャンパンを翌日まで保存する目的のもので、その日のうちに飲み切ってしまうお方には無用の長物ですが。お酒周辺のカンパ品にはこの日の会場であるブリアンの石部和明さんが、豊富な薀蓄で解説して耳を楽しませます。
 台湾製の車の模型は目覚まし時計です。時間が来ると改造車並みの騒音とクラクション、さらにヘッドライトまでつけて目を覚まさせるこのカンパ品には、6歳のはるかちゃんがジャンプしながら両手でアピールして2,000円で落札しました。
 Aiさん夫人手作りのサンキライ(赤い実)のリースもきれいです。来年はねずみ年だからとネズミモチ(黒い実)も飾り付けられ、クリスマスが終わったら竹や松、凧、羽根などを飾りつけると正月の注連飾りになるという、日本の習慣を織り込んだ優れもの。毎年恒例、Naさん夫人手作りマフラーも、あっという間に買い手がつきました。
 偽装に揺れたこの一年をパロった出品は群馬Maさんの自家製味噌、梅酒や野菜たち。無農薬有機栽培のサトイモとサツマイモにつけられた、「偽装なし、賞味期限は美味いうち」とのメッセージが効いています。
 その一方で北大Ta教授は、再出発したあの「白い恋人」をオークションに提供しました。今では空港で並ばないと買えないという1,260円の恋人に、神戸のHiさんが2,500円の値をつけるとTaさんが、これもなかなか手に入らないといわれる「じゃがポックル」をオマケに付けます。会場の一部からはエーッと言う羨望の声が上がりました。
 衣料品はモデルがポイントです。Yaさん提供の、紺のベルベットに金糸の刺繍が施された中央アジアの帽子は、パーティ事務局のNaさんがより効果的に見せようと被って見せると、これがまたよく似合う。観客から拍手なんか沸き起こって、結局Naさんが3,000円でお買い上げ。こちらは日本人の着こなしは難しそうなリーバイス牛革ジャン復刻モデル、Iさんが着るとほーッと感嘆の声が出て、Iさんにっこり16,000円。
 参加者は普通のサラリーマンが多いので、高額商品にはちょっとひるみます。それでも今年は高峰楽器提供のアコースティックギター6万円相当品が40,200円で、大分日田市老松酒造提供の26年貯蔵麦焼酎8,400円が5,000円で、それぞれお買い上げいただきました。
 会場である京王プラザホテルはバーマンのコンペ出場に熱心です。この日は創作カクテルコンペティション「2007 サントリー ザ・カクテル アワード」の栄冠に輝く笹沢崇之さんが、受賞作品「Celebriti-ni(セレブリティーニ)」を模範演技。もちろんこれもオークションしてSiさんがお買い上げ。続いて「リクエストに応じてオリジナルカクテルを作ります」と呼びかけると皆様いっせいに列を成し、ここでもカンパ金が大きく飛躍しました。中には「私に似合うカクテルを」などと難題を吹っかけたRyuさんもいましたが。 
 高いものを安く買いたい期待と、安いものでもカンパが目的だから高く値付けるやせ我慢と、もちろんチャリティそのものを楽しむ紳士淑女の遊び心が交錯した三時間半は、こうして過ぎてゆきました。


なぜ「カンパする」のか
 「毎年赤い羽根には協力しているのよ」「そう、えらいわねぇ」。「私もいまに余裕ができたらカンパでも」「それはいつ?」これはある日の主婦たちの会話です。でもカンパは余裕で出すものでしょうか。際限の無い欲望は満ちることが無いから、その日は永遠に来ないかもしれません。日ごろスーパーの1円2円に血道を上げている主婦の、これが哀しい習性なのかもしれません。
 チャリティですから、中には法外な買値の付くものもあります。例えば1960年代のソ連や中国の切手コレクション、未使用も含めてざっと500枚。これらは切手商が値付けするとたったの500円。これを16,000円で落札したのはデザイナーを娘に持つIさん他の皆様。レーニンや毛沢東など歴史上人物の肖像画、建国の希望に燃える労働者、国威発揚のオリンピック選手、帝政時代の美術品などなど、世界が冷戦に入る前後の空気そのままのカンパ品はきっと、若きデザイナーの創作の糧になってくれることでしょう。
 一方で、それぐらいなら現金を出したほうが良いという考えもあります。しかし例えば今回のカンパ額(提供品額と売上額の合計)約850,000円をカンパ品の提供者とパーティ参加人数で割ると、一人当たり15,000円。あなただったらNHK歳末助け合いや災害支援カンパにポンと、いくら出す?休日のパチンコ代10,000円は痛くないけど、見知らぬ人へのカンパにはできれば死んだフリをしたい、のが本音なのかもしれません。お金の価値は人それぞれに違います。
 同情心や共感はお金に託すのが一番効率が良いのも事実です。しかしお金にすると何だか支払いみたいで、「届けたい思い」が薄まる気がします。例えば天引きされる税金は納税者意識を薄めるし、天引きされる組合費は当事者意識を忘れさせる。
 物の売買に対する支払いではない、社会や組織というシステムや目に見えない構造を支えるには、それが自分のことであると気づくプロセスが不可欠であると思います。プロセス抜きのカンパでは、レジのチーンしか聞こえない。
 カンパの原動力は他者への関心や共感です。参加してこそ得られる連帯感があります。意味のない行動はつまらない。意味を楽しめない仕事、意味の無い稼ぎ方、意味の無いお金の使い方。暮らしから「意味」を除いたら、人間はただの生理的存在に過ぎなくなる。自分のいない自分の人生。実用価値ばかり追いかけていると創造性が枯渇するように思うのは気のせいでしょうか。


偽善か連帯か
 世の中の問題を嘆いて見せる。テレビのコメンテータならそれで済んでも、私たちの暮らしはその、改善の進まない状況の只中にある。で、あなたはその憂いに対してどんな行動をしますか?
 クリスチャンの故・田中豊さんは教会のボランティアで、尼崎の自由労働者に炊き出し支援に通っていました。家に帰るとゆったりソファに座り、クラシックレコードで心を養います。
 ある日、誰かが質問しました。「それは偽善じゃないですか?」貧しい人に施しをして、自分はぬくぬく贅沢しているなんて…。
 田中さんはこう答えました。自分も同じ貧乏になる必要は無い。自分の暮らしは自分を元気にするために必要だ。チャージしてまた、支援に行けばよいのだ、と。
 貧困者の救済は本来、政治の仕事です。困った状況は政治が悪い、役人が悪い、誰か強いリーダーが天誅を下してくれればいい。私は自己防衛で手一杯、できれば自治活動には距離をおきたい。裁判員制度?仕事はどうするの。ボランティア?負担にならない程度でお付き合いなら。偽装には法律を厳しくする、こうして決まりが一杯できて、庶民はどんどん息苦しくなるのではないですか。
 例えば旅先の風景で、途上国の金持ちのマンションは貧しい人たちから自らを守るために、窓は鉄格子、玄関は鉄扉とガードマンに守られていました。同じころの日本では敷地を植え込みで囲い、外に向けた開口部の大きな窓にはもちろん、鉄格子など無い。社会への信頼からくる安心の厚みを感じたものでした。
 現代日本はみんな自分のことばかり。自分カプセルはどんどん「社会」から切り離されて孤立して、無力な庶民の最大武器である連帯感が消えていく。個人の安心や安全は、鉄扉やガードマンなどではなく、社会との一体感でしか保障できないのではないですか。


私にできることを
 ライフビジョンのチャリティーオークションは今年で12回、これまでにパーティ参加者658名で、3,855,819円のカンパ金を国内外にお贈りしました。
 自然災害は自分たちの境遇と同化しやすいので、多くのカンパが集まります。アフガンやイラクなど、戦争による難民の支援には複雑な気持ちが残ります。現地の窮状と怒りには同じ立場の国民として共感するのですが、なぜ、それまでの日常生活が壊されて難民にならなければならなかったのか。
 特定国が自国の利権のために戦争を起こして難民を製造している、その構造を放置してささやかなカンパをすることの無力感はぬぐえません。政治がすべきことと草の根がすべきこと、もっと本来すべきことがあるのではないか、と。
 地球環境が大変なことは誰でも知っています。ポスト京都のニュースは人に遅れを取らない程度に追いかける、スーパーのレジ袋や資源ごみの分別など痛みの伴わない行動には参加する。しかし今回の私たちは痛みを伴う金額のカンパをして、砂漠緑化問題解決に参加しました。一段のステップアップです。
 カンパ金へのお礼の言葉の中でNTT労組群馬・田島和雄委員長は、私たちの活動が組織内の「自己満足」ではなく、もっと広がりが持てるようにしっかり続けなければ、とのあいさつに続けて、「ハチドリのひとしずく」という民話を披露しました。これはそのまま、ライフビジョンのチャリティティオークションの性格を著して余りあるものでした。

 皆様の来年のカレンダー、12月の第二土曜日は「ライフビジョンのチャリティ」とご予定よろしくお願いします。(編集部)







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