2008/11
石油屋から見たエネルギーセキュリティライフビジョン学会


 資源・エネルギー問題は私たちの生命と財布に良く見える形でその異常を訴えています。
 経済活動に従事するサラリーマンとして、あるいはその果実を享受する消費者として、環境とエネルギーをどう考えるか。
 2008年10月25日(土)13:00−17:00、ライフビジョン学会が主催して、資源・エネルギーとポストモダンの公開学習会を行いました。


問題提起1
石油屋から見たエネルギーセキュリティ
石油会社勤務/伊藤敏和


問題提起2
モンゴルから現代日本を考える
植林ボランティア体験者/小浜孝光

勉強会の問題意識
地球の復讐
コーディネーター/奥井禮喜

問題提起1

資源・エネルギー問題でいま、
議論されていること


伊藤敏和/ジャパンエナジー労働組合

石油消費の現状
 私は石油会社のサラリーマンなので、資源エネルギー庁他の資料を基に、石油の話をしたい。
 世界の一次エネルギー消費で大幅に増えているのはアジア・太平洋である。石油輸出国であった中国は1993年からは輸入国に転換し、2002年からは急激に消費量を伸ばしている。日本と欧州・ユーラシアは省エネでがんばって、エネルギー消費量を減らしている。世界では2.4%の伸びである。
 一次エネルギーの中で一番増えたのは石炭、その一方で原子力が減っている。天然ガス、水力も増えているが、水力は夜間電力を消費する揚水発電もあることも考慮しなければならない。
 一次エネルギーの9割は化石エネルギーの石油・石炭・天然ガスである。環境サミットでCO2削減が話題だったが、9割もある化石エネルギー消費は簡単に減らせないかもしれない。
 世界の石油の生産と消費量を見ると、消費量が上回っている。生産を上回る消費などありえないのだが、これは統計には表れない、例えば先進国などに在庫の取り崩しがあったり、統計に入っていない生産もあるのではないかと思っている。
 2007年の石油生産量は全体で0.2%の減産である。消費は1.1%増えている。
 世界のエネルギー需要は対2005年比で、2015年には30%、2030年には50%の増加が予想されている。増えるのはインド、中国、中南米、アジア、アフリカ、旧ソ連圏などなど。日本や欧州はほとんど変わらない。エネルギー需要は増加する一方であり、これからも化石エネルギー需要は増加するといえるだろう。


生産の状況
 原油埋蔵量の6割は中東に集中している。最近になってブラジルで発見されたというが、深海油田なのでコストが高く開発技術も必要で、生産量の急激な増加は期待できない。今後も中東依存は変わらないだろう。
 石油消費は、毎年130万BD(日量バレル)増加する予測である。ここに来て不況になったのでいったんは鈍化するだろうが、増加基調は変わらないだろう。
 消費量の増加に対応するには開発投資が不可欠であり、万が一産油国が油田などを開発しなければ供給不足になる。1980年から2000年ぐらいまでは原油価格は、1バレル(159リットル)約20ドル程度で、安すぎてコストも出ないということで、十分な開発がされなかった。したがって、生産体制としては、需要が急増したとしてもそれに対応できないことも考えられる。
 原油価格が上がっても供給余力は低迷しており、ここ数年においても開発されていないことがわかる。例えば供給源のイラクなどでパイプラインが爆発でもすれば、とたんに間に合わなくなる。ナイジェリアで部族対立が激化したときも、ビアフラ海沿いの油田から生産・送油が止められて、あっという間に150万BD程度が止まった。こうした危機に対して、他の供給源が十分に代替供給できる体制になっていない。
 産油国による適切な開発投資が不可避である。
 原油価格は7月11日に瞬間最高値147.27ドルを付けて以来、ずっと下がっている。1984-1986年は世界的な景気低迷で需要が下がり、それまで第二次オイルショックの影響で高止まりしていた原油も値下がりして、ようやく先進国の景気が回復した。


将来も中東依存
 日本の一次エネルギーは8割が化石エネルギーで、そのうちの5割を石油に依存している。2015−2030年でも石油が一次エネルギーの4割を担う。石油が減った分、天然ガスと原子力が増えている。原子力は大幅に増えると予定されている。
 電気は二次エネルギーである。発電の原料は原子力、LNG、石炭、石油があるが、その比率は2004年現在で原子力発電が30%、石油は10%しかない。2030年には原子力を10%増やしたいという見通しが出ているが、原子力が伸びないと化石エネルギーに頼らざるを得ない。原子力を持たないイタリアも、一次エネルギーに占める石油は5割近くある。
 原油の輸入依存度はイタリア93%、日本は99%である。原油の輸入先は、日本は9割近くを中東に、イタリアは34%を中東にと大きく違う。ヨーロッパには北海油田があるし、ロシアの生産量も増えているが日本の場合、アジアはすでに輸入地域になっているし、中南米は太平洋側に油田はないから、中東依存から抜けられない。


油田開発
 日本の自主開発比率(自国企業が資本参加して開発の権益を持つ)は18.9%と少ない。イタリアの自主開発比率は55.8%と、ここでも大きく違う。経済産業省は何とか2030年には40%にまで上げたいと、新・国家エネルギー戦略にうたっている。
 油田の開発環境を見ると、中東諸国では国営石油会社が8割の資源を保有し、外資への利権開放はほとんどない。イランとイラクは外資に開放してはいるが、政情不安で仕事にならない。
 中国とインドは「政経融合型トップダウン資源外交」なので、日本の民間企業が単独で入札してもなかなか勝てない。ロシアはサハリンガス油田問題のとき、政府が突然「地下資源法」で自国企業による権益51%以上を制定して、外資の参加を制限した。日本は石油公団が解体されて以降、民間企業だけで苦戦していた。さびしい限りである。
 開発コストも大幅に上がっている。2004年以降、掘削リグ費も資材も人件費も、急に上がってきた。開発する石油技術者も年々減っていて奪い合いになっている。新規油ガス田の水深は1,000mから2,000mと大水深化しており、探鉱技術の難易度が上がっている。最近では一油田300億円から1千億円という巨額な投資が必要だが、もし油田が見つからないとその投資はゼロになる。
 探鉱・開発プロジェクトも巨額化している。各国の探鉱投資額を見ると、日本のナンバー1は国際石油開発帝石であるが、世界一のロイヤル・ダッチ・シェルの十分の一である。私企業で開発するには、資金力に劣る。
 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構JOGMECは最近、リスクマネーの供給強化を打ち出した。探鉱出資および債務保証の負担割合を50%から75%に引き上げたり、資源エネルギー新保険も新設された。サウジとの協力やアラブ首長国連邦などとの友好関係の維持など、王国にはまだ人情が生きているので、そういう付き合いも有効だと聞いている。


エネルギーの将来
 一方でエネルギーの高度化利用が必要だ。例えば火力のエネルギー効率を、いまの4割から6割に高めれば、日本の石油使用量問題は即解決するだろう。
 今考えられているエネルギー技術には、
 @創エネルギー。革新的石油精製技術や、非在来型化石燃料生産・利用技術の開発がここに入る。未利用の低資源、例えばアスファルトなどの残渣分を泊由化(灯油や軽油など)して有効利用したり、また、次世代型の石炭ガス化複合発電に燃料電池などを組み合わせたものが開発されれば、発電効率は4割から6割ぐらいまで高まる。これらの新技術が開発されれば、日本の一次エネルギーを担っている資源の輸入量がまったく違ってくるだろう。
 A再生可能エネルギーは太陽光発電や風力、バイオマスなどであるが、基本的にコストが高い。いまの火力発電に勝るものは原子力発電ぐらいしかない。しかしウランの埋蔵地域は偏在しているし、可採埋蔵量も限りがある。太陽の核融合ができれば原子力発電は有効だと思うが、まだ技術が及ばない。
 石油鉱業連盟が発表した石油天然ガス枯渇年数は、2005年末には「あと68年」であった。前回2000年末には「あと79年」だった。6年間早くなっているのは中国の経済発展や、未発見資源量が縮小していることが主因である。
 石油の生産が横ばいに転じるのは早くて2015年、遅くても2035年と推定されている。自噴していた原油は圧力が少なくなるとだんだん出なくなるからであるが、開発が遅れれば原油価格は早晩、急上昇すると思われる。
 以上の状況から日本のとるべき対応を、私は以下のように考える。
 石油は有限である。輸入した石油は徹底して活用しよう。省エネは不可避である。
 石油などの化石エネルギーの消費を抑えるための、新技術開発のスピードアップが必要だ。
 国民の理解を得て、政府によるエネルギーセキュリティへの積極投資、促進策がますます重要である。
 CO2の排出権取引は、取引しているだけで実質何も減らないのである。







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