2011/08
農水産業で東日本の震災復興をライフビジョン学会





シンポジウム
   人智を集めて未来を拓こう


■日時
 2011年6月25日13:00-18:00

■プログラム
@講演 東日本復興のために何をすべきか
 衆議院農林水産委員会委員長
                         山田正彦 氏
A活動報告 混沌から復旧、その過程で起きていること
 連合岩手副事務局長 三浦 清 氏
BTalk & Talk 参加者による話し合い
 コーデイネータ 奥井禮喜

■カンパ金
 当日の参加費268,500円は全額、岩手県内で複数のボランティア受け入れベースキャンプを運営する連合岩手にカンパさせていただきました。
 カンパ報告記事はこちらでどうぞ。

■報告記事
 当日の様子は逐次、本誌OnLineJournalライフビジョンで報告させていただきます。




山田正彦(やまだまさひこ)
 衆議院農林水産委員会委員長
 前農林水産大臣 衆議院議員
 民主党長崎県第三区総支部長 弁護士
 早稲田大学法学部卒業 長崎県五島市出身



























































































































































[ただ今書店にて発売中]
宝島・700円/冊



 この本には思いのたけを存分に書いたので、講演で言い得ない考えを存分に読んでもらえると思います。(筆者)

 2011年6月25日、ライフビジョン学会は東日本被災者支援の輪を広げるシンポジウム「人智を集めて未来を拓こう」を開催しました。
 前農水大臣の山田正彦氏による講演「東日本復興のために何をすべきか」では、壊滅的打撃を受けた沿岸水産業の再生や、長年心配りされていた日本農業、日本の食糧庫・東北のこれからについて大きな青写真を示していただきました。

 

縦割り行政のまずさが露呈した震災対応
 私は五島列島で生まれて長崎で被爆しました。今回の東日本大震災で岩手に行って被災地の光景を目にしたときすぐに、浦上にある原爆後の写真を思い出しました。漁船2万隻が失われ、家屋が流され、あれだけの死者行方不明者が生じてしまった。青森八戸から千葉県旭市までの沿岸集落は、車で走れども走れども延々と、瓦礫の山が続いていました。
 農業漁業の被害は甚大です。東北の水産は日本全体の3割近くを水揚げしていただろうが、それが一瞬にして波に飲まれた。農地も1万4千ヘクタールが潮をかぶってしまった。福島原発による放射能汚染では、耕作できなくなった農地は2万ヘクタールを優に超えているだろう。さらにそれだけにとどまらず、東日本の地震によって一部の部品供給が途絶え、世界の自動車産業が大変な影響を受けてしまった。
 復興のために何をしたらよいのか、迅速な対策を講じる上で露呈したのが、縦割り行政のまずさでした。
 たとえば福島でいえば、放射能検査は文科省、農水産物の安全性は農水省、安全基準は厚労省の管轄です。安全基準の数値であるベクレルやシーベルトは文科省が管理し、農水産物の規制は農水省が、という具合にばらばらだ。
 なかでも縦わり行政のまずさをつくづく感じたのが、「生茶」の問題です。神奈川の生茶から500ベクレルの放射性物質が検出された。これについて厚生労働省は安全基準を超えるから駄目だというが、農水省の見解は違っていた。
 生茶を乾燥させた荒茶になると、水が飛んだ分だけ濃縮されて5倍の、2500ベクレルになる。しかしお茶に淹れるときにはお湯で40−50倍に薄まる。飲料水における安全が200ベクレル以下というなら、生茶の2500ベクレルだけでは問題ないではないかと申し入れしたのだが、農水省で決めたこの数値が厚労省ではだめだという。結局、製茶も生茶も500ベクレルがだめだとなり、静岡のお茶がすべて廃棄処分となり、日本茶の4割がだめになってしまいました。


権限の集中で迅速な決定を
 普通ならば各省庁局長クラスで決めればよい程度の問題なのに、それだけでひと月半かかり、最後に官邸で総理大臣が決める。漁船の建造や、中古漁船を、岩手、宮城に送るにしても、日本の政治はいろいろな縦割り行政の弊害で、なかなかスムーズに進まない。
 ここは思い切って各省庁の上に立つ「防災府」あるいは「防災院」を置き、防災復興大臣の決定に従うとする迅速な震災対応が必要です。私はそのための法案まで準備して主張しました。受け入れてはもらえなかったが、何よりも迅速な決断が必要なのです。
 ちょうど一年前、私が農水大臣の時、口蹄疫病が発生しました。現地対策本部長としての約3ヶ月は「歩く超法規」と言われたほど、次々に決断を求められることばかりでした。きわどいことをやって、それを合法化するために「口蹄疫特別措置法」を作った。あの法律が通らなければ今頃は大変なことになっているが、おかげで口蹄疫を収めることができました。
 その経験から今回も、思い切って大胆に、現場で果敢にやっていく指揮官が必要だと主張したのですが、総理がお茶の葉のベクレルまで決めなければならない次第でした。
 小学校の校庭の土の処理も、し尿処理場の高濃度放射性堆積物も、その処理がわからないし決められない。福島原発の西方300メートルの大熊町に私の姻戚の家があるのですが、私はおそらくもう永久に、その家には帰れないと言わざるを得なかった。正確に今の状況を伝え、安易な希望を持たせず、しっかりとその方法を示すのが政治の役割ですが、今はそうなっていない。非常に残念です。


農漁業には回復の期待
 原発だけは終息のめどは立っていませんが、岩手、宮城、福島の漁業・農業については2−3年の間に必ず、前よりも回復できると思っています。現地を歩いてきたが放射能汚染は別として、養殖などの腐敗物や堆積物がだんだんたまって汚れていた海が、千年に一度の大掃除をされた感じで、海の環境は非常によくなったと考えています。
 私の生まれた五島列島の海では、台風がやって来ると大しけにしけて、海底の石がごろごろと洗われて、初めてよい海藻やひじき、わかめ、良い魚介類が生まれます。その意味で今回、世界三大漁場の一つである三陸沖の海はきれいになりました。カツオ漁の最盛期を迎える。カツオ漁に対する冷凍庫も急場の備えはできた。カツオが終わるとサンマ漁となる。三陸沖は引き続き、魚の宝庫であることは間違いない。ただ、いま困っているのは漁船がないことです。
 気仙沼、石巻、宮古、漁場は一応の再開ができるようになった。あとはカツオ漁のための船や、えさのイワシを取るまき網定置網船などをそろえることだ。漁業はそうしたものが何層にも重なって初めてうまく動けるようになる。
 幸いにしてあの大津波の時、まき網や底引きなどの大型漁船は早めに外海に出して、7割方は助かりました。一方流された2万隻はそのほとんどが、三陸わかめとかホタテとかの小さな漁船で、湾内には何千という養殖筏も作られていた。それが大津波でまったくなくなってしまった。
 養殖とか小さな定置網とか、1トン未満の小さな船をどうしたらよいかと思案し、私は西日本その他からずいぶん船を集めるように呼びかけました。結局あの辺の海にあった漁船と五島などの西日本の船は構造が違うことが分かり、うまくはいかなかったのですが。


沿岸漁業電機漁船構想
 いま私が実際にやらせたいのは、沿岸漁業電機漁船構想です。農水大臣をやっているときに、電機で動かす船を導入しました。
 経済産業の研究者によるとこれから先、ガソリンはあと10年もすればリッター350円時代を迎える。原油や天然ガス、重油は世界的に高騰していく。漁業者は高い燃料費に困っている。重油だとリッター100円を超えると漁に出られない。その一方で、わかめやホタテなどの養殖では小型船に船外機を付けてガソリンで走っている、このままでは採算が大変です。
 そこで船外機のエンジン部分をモーターに、ガソリン部分を電池に変える電動漁船にする実証試験をしたところ、燃費は1/8ぐらいになった。モーターはエンジンよりもメンテナンスがシンプルだし、大量生産すれば値も下がる。リチウム電池もこの3年ぐらいで1/5ぐらいに値下がりしています。
 これを東日本大震災で失った船に代えて導入することはできないか。住友電工では2年後には、バッテリーの価格を1/10にできると新聞にありました。電池はどんどん安くなっている。ならば漁港の協同組合の屋根は全部太陽光パネルをはり、沿岸部は風力発電し、プラグインで電動漁船につないで、沿岸の定置、わかめやホタテの養殖をやろうと、水産庁に発破をかけています。なかなか簡単ではないのですが。
 船さえ確保できれば、漁をする人はいる、海はきれいになった。あとはお金を回すこと。そのお金を回すことが大事です。


復興増税には大反対
 菅総理は復興会議を作り、復興増税を言い出しています。私は、いま増税するのは大反対です。
 今の日本の財政は厳しい。借金が800−900兆円あり、このままでは毎年20−30兆円の赤字財政負担が発生すると、財務官僚は言います。国の借金はそれだけあるが、国の預貯金はいくらあるか。借金もあるが預金もいくらあると、皆さんは政府から聞いたことはありますか?私たちは野党時代から、財務省は借金ばかりでなく預貯金をはっきりさせろとガンガン言うのですが、財務省はなかなか答えてくれません。
 日本政府は米国国債を100兆円持っています。さらに特別会計もある。たとえば福島原発事故の10-15兆円の損害について、東電に支払い能力はありません。しかし9電力をあわせると3兆円の「電力立地特別会計」がある。エネルギー会計には5兆円ぐらい、雇用促進事業団の特別家計には10兆円ぐらいあるはずです。
 私が農水大臣をやっていたとき、特別会計のほかに基金というのが、農水省だけで200兆ぐらいありました。各省庁にもいろんな基金があり、その最大は年金基金で240兆円はある。これがいま持っている政府の資産です。
 ヨーロッパの年金は日本と同じ賦課方式で、現役世代が先輩世代を担っています。だいたい、年間支払い分の数か月分の預貯金を持っているだけですが、日本は年間20兆円の年金支払いに対して、その数年分を持っている。
 日本のバランスシートは借金900兆、政府が持っている預貯金700兆超。それに不動産、固定資産、さらに日本が持っている海外資産だけで1200兆円、民間預貯金1400兆円といわれています。だからこそ、福島原発と大震災がありながら、円は世界で一番強くて1ドル80円を前後している。日本経済の中身はしっかりしている、何も心配することはないと、私は思っています。
 従ってこの震災から立ち直るには思い切って、20−30兆円の復興国債を発行し、それを大胆に東日本震災と福島原発に充てることです。家も家具も、仕事の船も失われた東日本には大変な実需がある。供給する生産活動を追いつかせる働き手はある。いまもう一度、設備投資をし、農漁業、工業、商業に金を回せば、日本は景気回復の最大チャンスを迎えていると考えています。
 お金さえ回せば、日本の景気はデフレ脱却できる。最大の災いをして最大のチャンスのときにあるといえます。大震災について思い切った財源措置をしながら、農業によって震災復興を図りたいと思います。


食糧自給を高める農業改革を
 去年の今頃は3.5ドルだったとうもろこしの値段が、トン当たり8ドルぐらいに高騰しています。リビア、イエメンの紛争も、もともと中東の争いはパンの価格が二倍になって貧困層が騒ぎ出す、食糧問題がきっかけです。年間6千万トンの小麦輸出国ロシアが大干ばつで、4千万トンしかとれず、輸出できなくなった。これが世界的小麦不足と値上げ、という事情もありました。
 今、中国、インドでは爆食が始まっています。食の高級化が爆発的に進んでいる。これから中東、アフリカがそうなる。その時世界の穀物在庫は、数年前の半分以下に落ち込んでいるでしょう。世界の食糧危機はいつ来てもおかしくない状況にあるのです。
 先日フランスで、各国農業大臣が集まり、食糧問題の話し合いが行われました。今回話し合われたことは、各国は自国で食糧自給すべきであるということ。いわゆる食料主権についてしっかり話し合いました。
 ヨーロッパでは農家所得の8割を国が所得保障しています。アメリカはとうもろこしを世界に輸出しているが、平均193ヘクタールを耕しながら、トウモロコシ、大豆、小麦で農家に助成金を出しています。大規模だからコストが安いというのではない。
 たとえばアメリカのコメ政策は、トン当たり240ドルの目標価格を設定し、国際価格は74ドル、その差額166ドルを米農家に支払っています。実際に日本にコメを輸入させる時は、74ドルの国際相場で売っている。トウモロコシも小麦も同様に、EUも米国も輸出補助金をつけて世界各国に輸出して、食料を支配しています。
 いま、スーパーで買い物しても、ほとんどはとうもろこしのでん粉が使われています。清涼飲料水も、今まではサトウキビの糖分、テンサイを使っていたが今はほとんどが、コーンを化学処理して糖にしたシロップが使われている。トウモロコシは工業製品として多くの菓子などに使われ、エタノール燃料にも使い始めている。アメリカ政府は税金で補助金を与えて、大規模農法で食料を支配しているのです。
 アメリカはまた、育苗法を作り、生産者はすべての種を種子会社から買わなければならなくなりました。遺伝子組み換えのモンサント社の種で作った農産物から、農家は独自に種を取ることができなくなったのです。アメリカではアンモニア、化学肥料、種子はすべて大企業に占有させている。
 EUは逆に、大規模農法を規制し始めました。小規模の農家、家族経営農業を基調とし、環境保全、食料自給率の達成など、非常によい結果を出しています。私たちもその方向で考えていかなければいけない時代だと思います。
 今こそTPP、今こそ強い農業にするために、農地集約、大規模化、構造改革という考えがありますが、そうではない。小さな農家が集落を、中山間地を、離島を支えていることに、国がしっかり支えていかなければならない。
 たとえばスイスは山国なのに、食料自給率60%をなぜ維持できているかというと、標高3000メートル以上の農家には530万円を、標高3000メートル未満には330万円を支給しています。環境保全と自給率達成のためにそれだけのことをしている。各家庭には40日分の小麦の備蓄と、国産小麦から使うことを義務付けている。各国それぞれが食料自給率について、フランス、ドイツ、イギリスもイギリスも、自給率30%だったものが70%台になっている。ドイツは60%を97%にして、食料安全保障にしっかり対応しているのです。
 日本ではいま、大企業が農業に参入しようとしています。大規模経営に条件のよい平地が株式会社ばかりになっても、中山間地の多いところで大規模農業ができるのか、心配しています。日本はアメリカ型の農業よりもEU型の、環境と食料の自給率、食の安全を大事にした食料政策を進めるべきだと考えています。

(写真協力・田島和雄)







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