ライフビジョン学会
働┃き┃方┃を┃考┃え┃よ┃う報告No2 ■主 催 ライフビジョン学会
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■会 場 国立オリンピック記念青少年総合センター
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■プログラム
―現場報告1―r 就職支援活動の現場から
平岡茂富美氏キャリアコンサルタント
―現場報告2―r 組織労働者の電話相談から
石山浩一氏 社会保険労務士UAゼンセン電話相談アドバイザー
―問題提起―r 日本的雇用慣行の一部見直しを
高見 修氏 NPO法人・人材派遣・請負
会社のためのサポートセンター理事長
厚生労働省ホームページ 知って役立つ労働法
働くときに必要な基礎知識
使用者と労働者が守るべきルールを定めた労働に関する法律は様々ありますが、派遣労働者にも、労働基準法、労働安全衛生法、男女雇用機会均等法等の労働関係法令が適用されます。
労働関係法令は、労働者の雇用主である使用者に対して責任が課せられていますので、派遣労働者と労働契約を交わしている派遣元事業主がその責任を負います。しかし、派遣労働は雇用主(派遣元事業主)と使用主(派遣先)が分離されており、派遣労働者を実際に指揮命令して業務を行わせたり、就業場所の設備や機械を管理しているのは派遣先であるため、派遣労働者の保護を確実にするとの観点から、一部の規定については派遣先に責任が課せられています。
■ 1. 適用の特例に関する規定
・労働基準法(労働時間、休日、休憩など) (派遣法第44条)
・労働安全衛生法(安全衛生、健康診断など)(派遣法第45条)
・じん肺法 (派遣法第46条)
・作業環境測定法 (派遣法第47条)
・ 男女雇用機会均等法(妊娠、出産、セクシュアルハラスメントなど)(派遣法第47条の2)
厚生労働省ホームページ 改正労働者派遣法
平成27年10月1日より施行 |
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私はいま、NPOを設立し、派遣労働に関する仕事をしている。派遣という働き方を通じ、改めて「雇用」についていろいろ考えさせられている。
私の前職は流通業で、大学を卒業しチェーンストアN社に入社して、店舗での仕事を経験した。その後組合役員を引き受けたが、書記長となったときがバブル崩壊と重なり、その後10数年、経営合理化問題ばかり携わることとなった。その中心的テーマは、正社員の処遇・雇用問題であった。
前職で体験した正社員の雇用問題と、現在携わっている非正規雇用の代表とされている派遣労働を通じ、いま、雇用問題について考えていることを述べたい。
日本的雇用慣行の一部見直しを
NPO法人・人材派遣・請負会社のためのサポートセンター理事長
高見 修氏
2014.5.17ライフビジョン学会総会学習会報告より
企業破たんの経験から 私のいたN社は1948年創業し、2000年会社更生法により破たんした。これはまさに日本の高度成長とバブル崩壊と軌を一にしていた。日本のチェーンストアーは、1960年代から70年代に急成長したが、80年代にはかげりが見えはじめ、1991年のバブル崩壊後は厳しい状況となっていった。
N社も同様で、80年代の成長鈍化の時期には、パート比率UPによる総人件費の抑制と、中高齢化する正社員のポスト不足対策が労使の課題であった。
N社も含め流通各社は、伸び盛りの時代に大量の大卒を集めていた。流通を選んだ社員の動機は、20代後半から30代で店長になれるというものであり、その上の数店舗を束ねる営業マネジャーとかブロック長などの管理職に若くしてなれるというのが魅力で、多くの人が集まった。それだけに成長鈍化による出店減とそれに伴うポスト不足は、N社が大量採用した団塊世代を中心とした正社員の処遇とモチベーションUPの阻害要因として大きく立ちはだかった。
対策としては、店長にはなれなくても定年まで売り場のマネジャー、管理職ぐらいで生活設計が成立つ人事制度を描き、賃金制度もそれに見合うものにすることや、今話題となっている勤務地限定社員制度なども導入し、仕事と生活のバランスを自ら選択できるようすることで、こうした問題の改善を図った。
さらに、こうした制度に加え早期退職優遇制度も導入した。本日の勉強会の主催者である奥井禮喜講師の人生設計セミナーを勉強し、35歳を中心に40前後、退職前など三段階のセミナーを開いて、会社はいつどうなるかわからないから自立せよと訴えたのも、この時期である。
バブル崩壊後の90年代に入り、N社は更に経営が悪化した。不良債権問題が企業再建の足を大きく引っ張る中、不採算店舗の閉鎖と人員整理という本格的合理化を行うこととなった。いわゆる希望退職の実施である。組合がやるべきことは、退職条件と再就職支援である。そしてその、再就職支援の難しさに直面した。
結論的に言えば、長期雇用保障を前提とした日本の正社員制度は成長・拡大のときには良いが、成長が低下したり停滞したときその機能はマヒし、打つ手立てに大変苦労したというのが、前職流通業の合理化問題に直面してきた実感である。
派遣の実情と人材サービスゼネラルユニオンについて N社の更正計画終結後、私は会社を退職して2008年、“NPO法人人材派遣・請負会社のためのサポートセンター”を設立し、運営に携わることになった。ちょうど派遣が社会問題化し、派遣バッシングや派遣法改正などが取り沙汰されるようになったタイミングであった。
ところで派遣労働の実情だが、非正規雇用の代名詞的に言われている派遣労働者は現在124万人、全雇用労働者の2.4%で、多い時でも2.8%である。諸外国でもほぼ同様で、一番規制の無い米国でも2%代で増えてはいない。
派遣規制を緩和すると全正社員が派遣になるとか、常用代替の元凶というのは言いすぎである。常用代替になっているのはパート、アルバイト、契約社員・嘱託・その他に分類される非正規社員であり、派遣労働者は増えていない。非正規は確かにいま増えており、全雇用者の37%弱を占めている。
人材サービスゼネラルユニオン(略称JSGU)は、上部団体をUAゼンセンとする16,000名の組織で、当NPO法人を資金支援している。UAゼンセンは本来、企業内組合で組織しているがゼネラルユニオンは、派遣事業者14社で派遣として働くスタッフを横断的に組織する労働組合である。組合員は事務系、製造系、技術系派遣に大別されるが、技術系派遣が多く61%の構成である。技術派遣スタッフはほとんどが無期雇用、つまり派遣会社に直接無期雇用される社員である。残る4割の事務、製造業の派遣スタッフは有期雇用が多い。多様な業種に多様な仕事があり、派遣は一括りでは語れない。
今回の派遣法改正の背景と改正ポイント 通常雇用関係では、企業は直接雇用した社員やパートタイマーなどに雇用責任と使用責任を負っている。これに対して派遣社員は雇用関係を派遣元企業と結び、仕事は派遣先企業の指揮命令を受ける。使用者は直接雇用し雇用責任、使用責任を持つという原則からすれば、例外的扱いとされている。雇用責任を持たない働かせ方は企業にとって使い勝手がよいと思われていることから、派遣業はいろいろ取りざたされている。
派遣法は派遣労働者を守る法律というよりも、むしろ派遣先企業の正社員との代替を防止する目的から、派遣事業者の利用を規制するための事業法になっている。そのため、派遣を利用する「業務」に着目し、業務内容によって派遣を利用できる期間を制限している。いわゆる「業務限定」による常用代替の防止である。
具体的には、26専門業務は自由に使えるが、それ以外の一般的な業務には、3年を超えてユーザー企業が派遣を利用してはいけないとされている。この業務限定という現派遣法の根幹部分を、今回の法改正では撤廃する案となっており、連合は反対しており、マスコミも批判的論調である。
確かに、今まで業務内容によって使用期間の制限を受けていたユーザー企業が、派遣スタッフを変えることで派遣利用が継続できる案となっている部分もあり、その点だけを指し正社員が派遣に置き換わっていくではないか、との言い分で、これを正社員ゼロ法とか生涯派遣法とネーミングしアピールしている(改正案全体を見れば誇張と言える)。
改正案が出された背景には、4つの要因がある。
1点目は業務限定、つまり専門26業務以外は派遣を認めない。3年使ったらその会社は派遣を使えなくなり、代わりに正社員を雇用せよ、という。しかし時代が変われば専門の線引きも変わり、業務限定が難しいことから、現場には矛盾と混乱が起きている。
2点目は制度のわかり難さ。2012年国会審議で当時の厚労大臣が、専門26業務の運営に問題があるとして制度の厳格化を指示した。これにより25年間の運用実績ある制度は大混乱し、事務用機器操作、ファイリング系派遣で辞めざるを得ない女性たちが大量に出た。派遣労働者の実質的保護にもっと目を向けるべきとの意見が出たこともあって、今回の派遣法改正では国会の付帯決議でわかりやすい制度にすることを決めた。
3点目、連合による「常用代替防止」と「まっとうな働き方をなし崩しにする」、という批判である。しかし前述の通り、派遣は多くても2.8%。正規社員に置き換えられる主力は派遣よりむしろパート等の非正規労働である。
4点目の背景は安倍政権の経済政策である。雇用の流動化、経済の活力アップに資する雇用政策にせよ、との大号令により雇用の多様化、外部労働市場の活性化が政策課題となっている。
ただ、この論議には立場を異にする二つの極論がマスコミに誇張して取上げられ、政策論議を歪めている。極端な規制緩和学者は、日本の雇用制度が成長の阻害だ、ぶっ壊せ。その一方には労働者に犠牲を強いる規制改革などもってのほかとする連合。そして今、解雇、労働時間法制の政策議論にも広がってきている。
これが今、動いている状況であるが、派遣で働いている人をさし置いての場外乱闘の感がある。派遣労働者の実態は何か、どういう人たちがどういう気持ちで働いているのか。これを今回の改正案はどう変えようとしているのか。
一つには派遣労働者の雇用区分、つまり有期雇用か無期雇用かで、派遣で働ける期間の制限を変える案。つまり派遣労働者が派遣事業者と無期雇用契約ならば雇用が安定するから、どういう業務でも無期限でよいが、派遣事業者と有期雇用契約の派遣労働者ならば、不安定だから同じ業務で3年以上は働けないと制限する。これが「業務限定」に変わる今回の法改正の基本的なところだ。
今回の派遣法改正案の評価(私見) 今回の派遣法改正案で強調されているのは派遣事業者の質の確保、派遣労働者の雇用の安定、派遣労働者のキャリアアップの3点である。
実質的な効果が期待されるのは、派遣事業者の質の確保で、不適格事業者の淘汰、排除に繋がればと考えられている。今までは届出で起業できた事業を全て許可制にするなど、派遣ビジネスのハードルを高くする。
日本は派遣事業者が2万社、世界第2位で、これは異様に多い。中国はあの人口にして5万社弱で世界1位、米国は日本より少ない。派遣スタッフが減ったにもかかわらず、事業者はほとんど減らない。ということは中小の派遣会社がいかにいっぱいあるかである。
このことは、派遣労働者の雇用の安定にもつながる期待がある。小さい派遣事業者では、派遣労働者の仕事が途切れないように次々と紹介できない。そこである程度派遣事業者が集約され、規模が大きくなり、さまざまなマーケットに派遣スタッフを送ることができるようになれば、派遣で働く人のキャリアアップ、雇用の安定に繋がってくる。その意味で見れば、今回の改正にはかなり大きな前進が期待できる。
確かにユーザー企業からみると、今までは3年以上は使えなかったものが、人が変わることで使えるようになり、連合の言うように「いつまでも使えるじゃないか」という面もある。その意味では規制緩和にはなるのだが、一方、派遣元企業、派遣する方には派遣労働者の保護に関する義務規定が多く盛り込まれ、厳しい案になっている。派遣労働者にとっての保護という面からは、一歩前進と言える。
ただし問題は、その実効をどれだけ担保するか。今後の派遣法改正に伴う具体的実務内容の中でそれが盛り込まれるかどうか。また運用はどうかを見ていく必要があると思っている。
日本的雇用慣行の課題とその見直しについて 派遣には問題もあるが派遣にしかないメリットもある。派遣でやむなく働いている人もいれば派遣就労を自ら選択している人もいる。我々は、「派遣はダメ、派遣は規制すべき」というのではなく、派遣も働き方の一つとして認めたうえで、派遣にまつわる問題点を具体的に是正すべきという立場である。
派遣就労の中ではやはり、製造派遣が一番問題を抱えている。
製造派遣はもともと日本の大手メーカーを支える下請けの構造的問題がベースにある。下請けが構内請負に、その構内請負が偽装請負問題を契機に派遣に切り替えられてきた。製造派遣解禁により派遣労働者数が一時的に増えたのは、この構内請負の労働者が派遣就労者に置き換わって増えたように見えたのが実態である。
ただ、製造現場の厳しい需給調整を担っているのは、この製造派遣であるという現実にも、もっと目を向けなければならない。
さらに現実を見ると、製造派遣には直接雇用をされなかった方、されにくい方、面接に行っても受け入れられない、労働弱者の方も多い。製造業派遣には当座の生活に差し迫った方もいる。そこに派遣会社が就業の機会と住む場所を、現実に支援している実態にも目を向けなければならない。
日本の正社員を中心とする雇用慣行には良い面が多くある。その恩恵を以って高度成長を成しえた。したがって軽々に日本の雇用慣行がガンでぶっ壊すべきという意見にはくみできない。
ただ、この日本的雇用慣行が、社会の変化についていけていない問題も出てきていることは明かである。だからこそ正社員制度の良さを補完する、多様な選択肢を用意していくことが必要になってくる。
そのことは、少子高齢化による労働力不足が差し迫った問題となってきている今日の、喫緊の課題でもある。
外部労働市場を担う人材サービス産業への期待 以上、正社員制度と派遣など外部の労働や非正規の働き方を考えてみると、従来の日本的雇用慣行を一部見直しする時期だと思っている。
私は長年正社員の雇用問題の対処に追われてきたが、今また全く違う派遣という外部労働にかかわっている。振り返ってみると正社員の良さを守るためにはそれを補完する働き方が、ますます必要になってきていると実感している。繰り返しになるが人口減少、高齢化などを背景に、その取組みが急務と思えてならない。
その意味で始めから否定するのではなく、派遣を含めた外部労働の良さを生かしていく考え方が必要である。
その役割の一端を担うべき人材サービス産業が社会に認められる産業になっていくために、次の4つの貢献が期待されている。
A 雇用の最適配置への貢献
B 人材育成、キャリア形成への貢献
C 臨時的・短期的な移動、労働需要への貢献
D 労働弱者への就労支援への貢献
外部労働市場でしかなしえない事業の高度化である。
Cの「臨時的・短期的な移動、労働需要への貢献」は、人材サービス業界の主業務とするところであるが、それをどれだけ、A雇用の最適配置への貢献、B人材育成、キャリア形成への貢献、にステップアップできるのか。
今回の派遣法改正もそれを期待されていると思っている。(文責編集部)
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