2014/08
職場のパイの奪い合いをどう乗り越えるかライフビジョン学会





■主 催  ライフビジョン学会
http://www.soc.lifev.com office@lifev.com
〒151-0063渋谷区富ヶ谷1-53-4本橋ビル3F
tel:03-3485-1397 fax:03-3460-4456
■日 時  2014年5月17日(土)13:00〜17:00
■会 場  国立オリンピック記念青少年総合センター
渋谷区代々木神園町3-1
Tel:03-3467-7201  http://nyc.niye.go.jp
■プログラム

 ―現場報告1―
就職支援活動の現場から
 平岡茂富美

  キャリアコンサルタント


 ―現場報告2―
組織労働者の電話相談から
  石山浩一氏  社会保険労務士 UAゼンセン電話相談アドバイザー OnLineJournalライフビジョン「社労士の目から」連載中

 ―問題提起―
日本的雇用慣行の一部見直しを
 高見 修
氏 NPO法人・人材派遣・請負会社のためのサポートセンター理事長

 ―参加者による意見交換・Talk&Talk―r

職場のパイの奪い合いをどう乗り越えるか








































コーディネータ 奥井禮喜

テーマに関係する
これまでの主催シンポジウム

経済問題を歴史的検証に
 奥井 私が最初に水野和夫さんとお会いしたとき、現在の経済問題を歴史的検証にかけて語られたことが非常にうれしかった。なぜ歴史的検証にこだわるのか。ランケ(歴史学者 独)は「世界史概観」で、『進歩とは人間精神の働きである』というが、日本人ぐらい歴史を考えない国民は少ない。進歩は歴史のふるいにかけないと見えてこない。
 第一部の水野さんの基調講演「グローバル経済の本質を解く」(7/15号参照)で押さえておくべきはまず、先進国の経済は1974年が頂点であったこと。また、世界人口の15%程度がずっと、豊かさを享受してきたという指摘である。
 1984年に国民の中流意識が90%になった。80年代に入ってエズラ・ボーゲルの「Japan  as No1」が話題になったが、勤め人は豊かさ・ゆとりが感じられないと言っていた。まさにあのとき、明治以来「追いつけ追い越せ」でやってきた日本が分岐点にあったのだが、その意識が十分でなかった。
 1973年石油ショックは1971年ニクソンショックの後、アメリカが金ドル交換停止をして以来の、自国に都合のよい通貨調整をしたことに対して、産油国がそのバランスを取ったものだったが、それが十分に理解されていなかった。
 先のバブルが弾けたことにより、日本では年収200万円以下の人が増えるなど所得格差、資産格差が拡大している。水野さんは今回の処理が欧米で終るのに5年以上必要、と言っている。
 ここで考えたいのは、――近代以後とは無限の彼方にあるテロス(目的、完成 ギリシャ語)に向かって驀進した、異常な時期である――という指摘である。ルネサンスや宗教改革を勉強すると、この言葉の意味がのしかかってくる。日本人にそういう体験がないことの意味は重い。
 我々はこの国に生まれて60年、敗戦後の景色しか知らない、上り坂の経済をこんなものだと思って生きている。これを何らかの歴史的検証にかけなければ、いまの状態が当たり前なのか、異なったものなのか、判断を見誤る。1974年が頂点であるということを、私は重たく感じている。
 世界は近代資本主義以来の危機で、ゼロ成長時代を迎える、中産階級のみなさんは崩壊する(笑い)とも指摘いただいた。そこでこれから、ゼロ成長を前提に話を進めたい。
 2009年6月13日の日経新聞社説は「底割れ懸念が後退した」などと書いている。金融システムは目下「小康状態」と言っているが水野さん、果たして問題解決したのでしょうか。
 水野 日銀・白川総裁がニューヨークで、「偽りの景気回復」が、日本では失われた10年の間に何回もあったと言っている。まさに今年2月を底にして生産輸出が回復し、その動きが今年中ぐらいは続く可能性がある。これは日本が経験した「偽りの景気回復」になる可能性がある。
 金融システムの立場から言うと、いままでアメリカの家計は少なく見ても4兆ドルから多くて7兆ドルの借金を抱えている。毎年1兆ドル単位で返さなければならないのに、半年でまだ2000−3000億ドルぐらいしか返していない。このペースでは家計はこれからさらに、返せない借金が増えていく可能性がある。日本も最初は7兆円と言っていた不良債権が、最後には100兆円まで増えていった。
 「偽りの景気回復」が起きているときには金融システムは小康状態になり、「偽りの景気回復」がとだえるとまた金融システムが悪化する。「小康状態」はその通りだが、解決はほとんど進んでいないと思います。
 奥井 もうひとつお尋ねしたいのだが、NHKが「マネー資本主義、暴走はなぜ止められなかったか」という番組を放映した。この問題意識はどうなんでしょうか。
 水野 なぜ止められなかったか。私はホワイトハウスをウォール街に“乗っ取られた”と思うので、止める意思がなかったのではないかと思う。彼らは止める必要も全くなかった。
 バブルというものは極限までいかないと、三合目なのか九合目なのか分からない。だから“乗っ取られた”グリーンスパン議長も、「バブルは弾けてみるまで分からないし、弾けたらさっさと消火活動すればよいのだ」と。極大化して後始末は公的資金で、というやり方だ。一旦バブルを作ってしまったら、私も対処手段はそれしかないのだと思います。
 OnLineJournal 2009年8月「価値観転換の時代をどう生きるか」より抜粋

・・・・ライフビジョン学会公開シンポジウム・・・  働┃き┃方┃を┃考┃え┃よ┃う┃報告No3
―参加者によるTalk&Talk―

 ライフビジョン学会では5月17日、「働き方を考えよう」と題するシンポジウムを行った。
 シンポジウムでは、ハローワークで就職支援相談を受けている平岡茂冨美氏、企業籍を持つ社員からの電話相談を受けている石山浩一氏、派遣事業のNPO法人理事長の高見修氏から、いま働く現場で起きていることを伺って、雇用事情全般の知識を得た。
 今月号はお三方の問題提起を受けて行われた、参加者による意見交換・Talk&Talkの内容を報告したい。コーディネータはライフビジョン・奥井禮喜。
 

パイはいつまでも拡大しない
 奥井 三人の現場報告と問題提起には、具体的な話からマクロの話までたくさん出された。ところで今の職場はうまく動いているのだろうか。
 K氏 いま職場で起きているのは、経営者と労働者によるパイの取り合いだ。経済が成長する時は誰でも給料が上がる、ポストに就けるが、自分が格別有能だったわけではない。先進国とはDeveloped country、つまりすでに開発された、パイが拡大しなくなっているところの意味で、それが今日の労働問題や派遣問題につながっている。
 H氏 60-70年代は何とかパイが拡大し、労働者にも配分のおこぼれが来た。小泉・竹中改革で金融資本が台頭し、以前は労使で決められた利益還元の話に投資家、株主が大きく介入するようになった。
 中小経営者の場合、自社株が上がってもそこで投資益を得られる企業は少ないし、まだまだリーマンショック、3.11、タイの洪水、円高の影響を引きずっているから、新たな雇用創出に結びつかない。
 一方、人件費を減らすより人そのもの、つまり雇用調整で利益の確保をはかろうという大企業もある。今回の春闘ベア発表も、上場企業だけでも3500社ある中で277社しか出ていない。一握り企業の動きだけで景気回復と論評されているが、アベノミクスでハローワークの不良案件は増えている。いま、経営者がいなくなっている。
 奥井 1980年には、実体経済とお金の関係は1対1.2ぐらいだった。それが今は1対3.5ぐらいになっている。経済を動かすのに必要なお金はだぶついている。日本の大手企業は270億とかの現預金を持っていても、設備投資をしていない。海外に出て行くところは別として、日本はもともと内需が弱いことを経営者はわかっているから、新たな投資をしないのだろう。
 かつての不況は販売不振になると在庫調整して、景気回復するというパターンだったが今は、企業が新製品を開発しなくても株が上がったり、何もしないのに下がったり。雇用問題を議論する前提に、そういう嫌な時代になっていることを押さえなければならない。


職場の「協働」が薄れている
 奥井 「パイの分配論」についてはすでに70年代、石油ショックの時代に「これからは犠牲の分担の時代だ」言われていた。厳しい時代の経営とは、命令して言う通りに人を動かすことではない。命令ではなく協働によって、気分良く働くことだ。働く一人ひとりは安心して働きたいと思っているにもかかわらずブラック職場があり、いじめも横同士、仲間同士でポストを取り合い、一人でも減れば自分の取り分が増えるという。
 その背景には労使関係があり、一人一人の人間関係もある。派遣で働く人が人間関係が苦手と聞くが、正社員も苦手になっているのである。
 「何のために働くか」から考えれば、一般的には「金のため」と答えながら、なぜ不払い労働をするのか。「自分の能力を発揮する」「したいことをしたいから働く」と答える人もいる。これは「自我」だが、日本の職場で自分を前面に出す人はいない。自分で決めて、追い込んでいける人が多ければ、職場は今のようにがたがたにならないのではないか。
 I氏 私は働く人の電話相談を受けているが、合理化がいつ、自分のことになるか不安を抱えていて、自分の会社や組合には相談できないという。
 H氏 その意味で労働者同士のコミュニケーション、互いの置かれた立場を慮る能力、助け合いの精神が薄れてきた。労働組合ができたときの勢いを残す70年代には、労働組合の存在、あるいは組合に代わる、社員同士のコミュニケーションの輪がまだ続いていた。社員同士の輪ができれば、良い方向に変わっていくだろう。
 私が担当している夜間の就職相談は、ほとんどメンタルが絡んでいる。辞めたいけど辞められない。なぜ不払い労働をするのかと聞けば、辞めたら次の就職は難しい、就職しても自分の希望の3−5割減の条件で落ち着いてしまう。そのことでストレスがたまり、対人関係に反映するという悪循環を生み出す。
 そこで私たち相談員は、辞めてから相談に来るな、先に転職先を探してから辞めろ、それまでは会社にしがみつけ。病気にならないぎりぎりまで我慢しろと応対する。
 K氏 全体が増えないから、上司と部下の間でも社内のパイを取り合う。部下を成長させてしまうと上司の立場がなくなるから、成長するような機会を部下に割り当てることができない。
 I氏 海外出向から戻った人から、自分の職場に戻れないとの相談があった。私が戻ると仕事を取り上げられると思う人がいて、私の悪口を言いまくる。上司に相談したくても先に悪口を吹き込まれていて、自分の評価が下がるから相談できない、という話もある。いじめ・嫌がらせは職場全体に、一定程度あるという前提で取り組んだほうが良いのではないか。
 労基法に抵触する職場からの相談には、最初に労働組合に相談しろと指導する。それでも改善されなければ基準監督署に行くのが話の順番だが、労働組合に相談すると職場に居辛くなると思い躊躇するようである。
 奥井 百貨店に就職した人が残業手当を請求したら、請求するものではないと課長がいう。人事部にも組合に言っても埒が明かない。こんな馬鹿な会社にはいられないと3ヶ月でやめて、今は契約社員になっている。
 私ならば、正解は「戦え」と言うしかない。組合が一緒に戦ってくれればよいが、それもない。労基法違反を知っていても声を出せないというのでは、いかにも情けない。はっきりした違反に対して対応ができない組合役員というのは、その程度の矜持なのだろう。
 O氏 企業にはライフサイクルがあり、個人にはライフステージがある。そこに環境の変化が加わる。企業の始まりや成長期には何をしても問題はないが、成熟期から衰退の時、いじめやメンタルなどの問題が出てくる。
 個人のライフステージも影響する。私の若い時にはスキルを身に着けたいとか、週休二日の一日は勉強に行って、自社だけでなく一般マーケットに通用するようなスキルを身につけよと言われた。そのときはいろんな資格取得に奮起した。
 ところで私が今いる会社は海外に目を向けている。モノも人も経営資源であるが、モノは新素材開発などで海外進出し、売り方も「日本製」を打ち出している。日本製の売り方は、海外で勝負できるマーケットだと思う。国内のパイは飽和状態でも、欧米中国もできないことを、われわれはできると思っている。それがいま、社員のモチベーションを高めている。
 奥井 企業が下り坂であろうが老衰期であろうが、そこにいる人たちは協働するとのキーワードを押さえなければならないが、経営者の視点にはそれが無さ過ぎる。
 正社員より契約や派遣のほうがパワーがあると威張っている非正規社員もいる。しかし馬鹿は契約にも正社員にもいて個別の問題だから、非正規であるか正社員であるかの問題ではない。そうなると、人事部の出番だろう。


ここに人事部の出番がある
 T氏 パワハラいじめ、労労対決など、さまざまな奪い合い現象をどうしていくのか。
 私のいた会社がひたすら上昇志向、拡大で突っ走って、経営がおかしくなった時、奥井さんは人事部に自立教育を指導した。とるべき手だては、もうぶらさがってはいけないということだと、その時わかった。
 もう一つ、内向きになっていたエネルギーを外部に向ける、それを誰がリードするのか。企業がおかしくなるといっても濃淡があり、全部がだめなわけではない。誰かを外に派遣して他の人と話をすれば、社内の意識が変わる。外に対してどんなアクションを起こし、内向きエネルギーを外に向けて、新たな活力をどう引き出すか。
 組合は配分に知恵を出せ。会社は経営の采配を振るえ。上司には上司の見方、雇われ社長はその見方など、それぞれの立場で人を見る目が違う。大事なことは人を全体的に見ることができるか、だれが現場で現金を稼いでいるのか、貢献しているかを特定できるか。自立、配分、外へのエネルギーの発揮の仕方の知恵が求められていると思った。
 奥井 ここでもやはり、人事部は職場に入らなければだめだ。一人一人を知らなければ始まらない。
 昔の人事部は、資本主義制度は非人情な制度だが、それを人間の顔をした資本主義にすることを心がけていた。非人情の制度の中で人間の活力を引き出すのが、人事部の仕事だった。これは今でも正論である。
 H氏 人事と組合は合わせ鏡で、組合がしっかりしていないから人事もいい加減な仕事をする。人事があいまいにするから組合も、存在はするがルーチン以上のことはしなくなる。
 実際、社員を非正規から正規に切り替える政策を進めている会社もある。それは労使の話の結果だろう。労使の共通項を作ることが、雇用体系を変えていくことになる。試行錯誤があっても、組合もよりいっそう参画して、制度を作っていけば、私が対面している底辺で働くメンバーも働きやすくなる。イオンで働きたい、という人も来ている。彼らは自分たちの仲間で、働いている人の労働条件、環境を見て、そこならば自分はやれると見極めてきている。その人たちの転職は早い、迷いは少ない。組合の方からも、もう遅いと思いますが(笑い)、提起していくべきだ。
 O氏 私の会社には労働組合はない。ブラック企業と名指しされ、労働時間など本当にすごいことがあった。しかしグローバル企業になれば、誰よりも早く出社し遅く帰るという頑張りは海外で通用しない、契約時間の中でやること、国内時間管理をしなければいけないことをリーダー、マネジメントする人は次のステップに行っている。企業の成長サイクルの中でいろいろ起こって、一つ一つ乗り越えていく。 
 最近はウツの問題がある。日本の会社は商品の苦情ならばすぐ分析するが、人が壊れたときは隠す。すぐ処理をしなければ問題解決にならない。したがって健康保険では、一次予防=ならない策、二次予防=なった人のケア、三次予防は職場復帰以降の問題。それぞれステージごとに解決方法があるのではないか。


人間の労働の再生を
 N氏 そろそろ僕らは、瞬間的思考はやめて深く考えて、思想の確立が必要だ。
 人間の長い歴史の中で大きく二回、人間が共同体から切り離されたと思う。
 一つは、産業資本主義が発展したとき。人間は本来、共同体の中で成長していく。その人間がそれまでの共同体から切り離された。それを企業組織の協働によって補っていたものを、次には資本主義の限界によって再び切り離され、孤立し、いま、人間としての力を失った。
 根源的なところから、人間の労働の再生をしなければならない。それは職場、会社、社会、共同の再生。または共同による共生を社会的に再生しないと、ダメだと思う。
 雇用労働者は5591万人、労働組合はその1000万人しか組織していないが、最大のNPO組織として社会に訴え、実践によって状況を変えていかなければ、働き方をめぐる現象面の問題は根源的に解決しないと思う。
 奥井 先進国の資本主義は危機にある。グローバルという言葉は、危機の別の表現だ。金融資本主義は、従来の積み上げ型の、コツコツ働くことを壊した。
 1980年代後半からカジノ資本主義の言葉が出た。怖いのは働く人のモラールが落ちること。サブプライム商品など、銀行マンが一攫千金狙うのだから、こつこつ働くことが壊れていく。
 ではどうするか。
 この30年、私が思い続けているのは、組合が労使協議、労使協調の意味を取り違えていることだ。労使協調とは目標であり、プロセスではない。組合も経営のことを考えなければならないが、経営は会社の専任である。
 組合存在の立脚点をどこに置くか。少なくも組合役員は、経営と組合員の行司ではない。組合は組合員に脚を置かなければ組合員から見離される、その存在意義を失うということである。
 いまどき長時間、不払い労働などが蔓延している先進国など、ない。経済合理性に対抗する、労働合理性を確立しなければならない。

 「労働合理性」の続きは本号論壇「経済合理性論・労働合理性論」をお読みください。







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