2015/04
お勤め人には危険がいっぱい勉強会 報告ライフビジョン学会






主催 ライフビジョン学会
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 ライフビジョン学会では2015年1月31日午後、働き方を考える勉強会を主催しました。

 問題意識 
 世界経済は情報スピードを上げている。今日の勝ち組は明日のそれとは限らない。お勤め人はいつも、自分の会社が消滅する、自分の培ったプロフェッショナルが無価値になる危機と対面している。公務員も民間も、清算事業団や追い出し部屋で「辞めさせ圧力」を受けている。担当職務では不都合な真実の隠ぺいや不人情な人事管理など、後ろ向きの仕事が増えている。働く人は人間疎外をきたしている。
 もう嫌だ、こんな働き方!
  個人では対応しにくいリスクをどうマネジメントするか。

プログラム
  “覆面公務員”からの問題提起
 参加者による意見交換
会 場
 国立オリンピック記念青少年総合センター

現代の働き方を考える
お勤め人には危険がいっぱい!

覆面公務員の話題提供と参加者による意見交換

 まずは覆面公務員による問題提起から――。
 芥川龍之介の「蜘蛛の糸」は、地獄に落ちたカンダタという悪人がただ一度、生きている間に蜘蛛を踏み潰さなかったことを以って、お釈迦様が地獄に落ちているカンダタに糸をたらして救済しようとする。彼はその糸にすがって登っていくが、下を見るとほかの悪人どもも登ってくる。こんな細い糸に群がっては切れてしまう、降りろと思った瞬間に自分のすがっている糸が切れたという仏教寓話である。
 仏教の救済はいかに細い糸でも何人でも救われる大乗の思想であるが、現代の勤め人にそんな糸はあるのだろうか。
 国の考えるセーフティネットは日本の場合、企業には手厚く、ある程度組織化された人にも用意されている一方、個人には手薄い。生活保護は原資がなくて、役所で断られて死んでしまったりの悲惨なニュースもある。絶対切れない蜘蛛の糸でなくても複数の糸で個人用のセーフティネットを編めないものだろうか。
 思えばグローバル競争が始まる前の日本はおおらかだった。談合もあったし、皆で発展するための年功序列も、「誰でも課長になれる時代」なんてのもあった。それらとセットで経済が全体的に成長していたから、社会の矛盾が個人に直接降りかかることはなかった。
 実際には激しく追い上げられているのにグローバルで日本が勝ち続けることができると思い込み始めたところから、何かおかしくなっている。世の中がぎすぎすしてくると、違法脱法も見つからなければやった者が勝ち、人間の労働力も思い切り使った方が良いとの風潮が加速された。
 スーパーコンピュータで金融予測ができる時代になっている。金融工学を主軸にITテクノロジー、金融テクノロジーでカネを投資し回収する方法で、競争が加速され格差が拡大し、労働者の働く環境を悪化させた。それが顕著に現れているのがアメリカである。


自分の会社が突然無くなる
 競争の加速で個々人は、過去に無い危機に遭遇するようになった。
 企業ができて衰退するまでのサイクルがどんどん短くなっている。絶対安全パイが少なくなり、今は儲かっている勝ち組も将来はわからない。イノベーションして起業しても、それを真似る技術が早くなっている。任天堂のゲーム機に皆が追いつく時間は長かったが、「千円床屋」のビジネスモデルが真似られるのは早かった。真似る技術も上がり、一人勝ちの期間が少なくなっている気がする。
 アレっと思う衰退の一つに東京電力がある。負けは絶対ないだろうと思われていた電力会社が自然災害を機に苦戦している。原発を持つ他の電力会社もあおりを受けて規制庁の許可が得にくくなり、世間の目も厳しくなっている。
 今まではメディアが日本の意見をリードしてきたが、活字離れで各新聞も書籍も読者を減らし、朝日新聞は挽回を狙ったのだろうが、社会の指弾を浴びてしまった。
 インターネットが紙媒体メディアの代わりになりつつある。事実を知るだけならば、新聞より早く見ることができる。
 テレビ業界も視聴率を取れなくなり広告収入が減っている。良い番組がないのにブラウン管の技術、解像度だけが上質になっている。テレビの画質を良くしても、見るべきソフトが無い。受像側の性能向上に合わせて送信側も改造が迫られ、負担だけが増えている気がする。
 一方、羽振りが良かった会社が消滅することも起きている。三洋電機は会社が無くなった。また、何でも揃えて何でも安くという面白い品ぞろえのダイエーは、イオンに完全子会社化された。
 個人が思わぬ危機を呼ぶ場合もある。
 自分が不正をしていないのに勤め先がなくなることは、普通ではありえない。理研ではSTAP部署がかなり縮小され、自分は何も悪いことをしていない科学者たちの仕事場がなくなった。
 飲食店でのバイトが冷蔵庫の中に入ったり、食べ物の上に寝転がったりの馬鹿をネットに投稿して店がつぶれる。昔ならば正社員が多かったのでモラルは高く保たれていたが、職業に対する訓練を手抜きして労働力を安く使おうとの思想の広がりで、最後は自分の店がつぶれてしまう。
 

公務員にも危険がいっぱい
 安定職種のナンバーワン・公務員も絶対安全パイがどんどん無くなりつつある。
 公務員には雇用保険がない。解雇がないからであるが、代わりに部門間配置転換がある。国有林を管理する林野庁は林業衰退で規模を縮小した。「山が好き」だからと公務員になった人が山に入られなくなり、人が行きたがらない不人気部門に配置転換された。
 国鉄も良い働き場だったが、組合解体を狙った当局が全員を解雇し、JRに再就職させた。再就職させたくない人は清算事業団にずっと留め置かれた。中にはうまく適合する人もいるが、鉄道技術や電車が好きで職業選択した人には、志と違う苦しい生活を迫られた。
 再配置された彼らの働き方を見ていると、実に面白くなさそうだ。公務員は普通の会社勤めはできない、役に立たないと思われていて、辞めても行き場が無いから辞められない。やむなく意に沿わない職業人生の半生を送ることになる。直ちにクビにはならなくても、もともとの志を持つ人には不幸なことになる。
 違法脱法の片棒担ぎをさせられることもある。
 公務員の世界にも裏金はあり、一昨年は大学の先生の話があった。先生が実験機材に高い金を支払い、余り金を業者にプールさせた。こんなところに配属になると違法行為の片棒担ぎだ。これとは話が違うのだが、実際に異動先で就いた職位には裏金の管理も付いていて、引き継いだだけなのに発覚したら犯罪行為という事例もあるのだ。先のプール金やこの例は会計制度が使いにくいので仕方なくやっているのだが、たまたま自分がそこに当たったときに裏金の存在がばれてしまうと、組織的なリスクを個人が負うことになる。
 もんじゅ事故、STAP細胞などで自殺者が出たり、仕事でウツになる人もいる。それならば洗いざらいマスコミに話して辞表を叩きつけたほうがよほど良いのに、失業が怖くて踏み切れない。


日本の労働インフラが失われている
 リストラ、非正規、給料減らし、これらはセットで行われる。
 グローバル競争で最後に減らすところは人件費しかなくなる。社員の非正規化や人数減らし、人材不足はサービス残業で埋め合わせる。労働者は自らの雇用を守るためにサービス労働にNOが言えない。サービス残業の常態化などで組織がブラック化しつつある。
 機械ならばメンテナンスし油を注せば明日も動く。人間も明日会社に来られるだけの給料でよいと考えれば下げ圧力が働くだろう。
 社員の非正規化は、導入当初はコスト効果は出ても企業力は蝕まれていく。リストラはあの手この手で強行し、いまや大企業には追い出し部屋なども存在する。お勤め人個人は組織に対抗する術がない。
 こうして日本の労働インフラが失われている。ジャパンアズナンバーワンといわれていた時代にILOの勧告通り、残業を減らし雇用を増やし、サービス残業をなくせば良かったが、勧告を放置した。そこにグローバル競争が激化した。新しい人を雇って残業をなくすのではなく、不払い残業させて雇用する人を減らす、との考えが押し進んできている。


個人でできる護身と護心は?
 労働相談に掛かる電話は、会社が信用できなくなってからくる。その段階では会社もその人に対して嫌がらせをしている。相談者は本人の都合の悪いことは言わないもので、なぜそれが起きているのかを聞くと、別のところでいざこざを起こし、それが違うところに波及していたりする。
 個人が組織と戦うときには、そこに至る前に護身と護心の予防線が必要になってくる。メンタルを何人作っても、出世する人は出世する。まずは組織内で余計な争乱の種をまかない。何かと突っかかってやりにくい奴と思われないよう、人間関係は極力よくしておく。リストラなどでは条件闘争に持ち込み、取るべき退職金をアップさせる。
 失業したらどうやって食っていくか。普段から副業等を確保しておこう、妻を社長にした会社を作れなどと副業本は指導する。
 一人でも入られる労働組合などを把握しておく。一人で戦うより少しでもバックがあったほうが良い。以前は東京管理職ユニオンなどがあった。公務員は組合を作ろうとすると地方に飛ばされるので、組合のない職場は多い。
 細すぎる糸かもしれないが、公共の労働相談、社労士等の無料の相談会もチェックし、普段から勉強しておくこと。
 心と体の健康はどちらを失っても人生を楽しめない。仕事が面白くないとストレス解消に、食べないほうが良いものをたくさん食べて体を蝕む。日本人はストレスの量と視神経の減る数が比例するとかで、ストレスが視神経に影響していたとは驚きだ。自分の仕事の思わぬストレスに心当たりがないかチェックしておこう。守りきれないときにはとっとと逃走。自殺するぐらいならば逃げて負担を軽くする。
 妙な仕事を押しつけられないため、真っ先にリストラに遭わないために、普段から少しは正論を吐いて、手強さ感を漂わせる。
 現代社会ではどのような危機が潜んでいるかわからない。全方位のアンテナをフル活用しよう。情報収集がないと生き残れない。
 こうして正攻法ではない処世術でも、細い糸を並べてなんとか生き延びて、退職金を手にできるまで頑張ろう。
 …これから退職金をもらう人の参考になればと、覆面公務員氏はここで話しを終えた。


一人逃げではリスクが高い
 勉強会はここから、参加者による話し合いに移った。
 ――たしかに正攻法ではないね。受け身ばかりでなく、反撃はしないの?
 ――護身と護心だけど、すでに民間のお勤め人は実践中だよ。組織内で騒乱の種をまかないというが、ちょっとしたトラブルではじかれる、正論もやばいから吐かない。
 ――このままだとお勤め人は、蜘蛛の糸から落ちていく男と一緒で出口がないね。
 ――日本人は明治時代から事大主義、横並び、人と違ったことをしない。長いものには巻かれろ、強いものには折れろ、重たいものには押されろ。3レロでよいのかと漱石は猫に言わせている、日本の人事管理はその上に根付いているんだ。組合が元気なころは、言い返す力があったんだけどね。
 ――あきらかな不正経営に対する内部告発に同調者がいない、言うのをはばかる空気が怖い。正論が通らないんだもの。正論が通るならば、救いがある。
 ――うん、政治も含めて社会全体で正論が通らない。昔は怖いおじさんおばさん、先輩が注意した。その積み重ねが今、人の間違いを質す人がいない、何かあっても言わないでおくのが安全ダとなっている。
 ――その気風は昔からあった。理不尽を我慢する日本人だから封建社会が長く続いた。それを美風のように喧伝した儒学・道学者たち。経済がうまく行っているときには出ないが、シビアになると弱いところに噴き出す。
 ――人間関係はフランクに話ができないと良くならないけど、職場の人間関係はどうなの? 愚痴は内向すると逃げ道がなくなるから、不満を提案型にして出すことも、護心術のひとつだよ。
 ――普段から副業を考えるのではなく、いっそ公務員を副業にしたら(笑)。最近は兼業届けを出せば公務員も副業ができるし。
 ――ところで「蜘蛛の糸」の話は、日蓮にもある。谷底の男に山の上から綱を下ろした。ところが綱は細いし上の男が小さく見るので、そんな力があるものかと思って辞めたんだ。やろうと思わなければ何もできないだろう。芥川の蜘蛛の糸も、自分だけよければという心が後ろを向かせた。ひたすら進めばよかったのにね。
 ――自分だけ逃げようというのではますますリスクを高める、という寓話かな。(笑)


7.公務員にこそ、堂々たる組合を
 ――ところでさ、公務員のモラル、モラールってゆがんでいない?(笑)つまり公務員は、一般国民に対する優位感が相当に面白い様相なのではないかと。
 郵便局が民営化される時、若い職員は公務員でなくなることをとてもビビッていた。しかし彼らの先輩世代はかつて、公務員という名の下に労働三権を剥奪された、われわれは労働者以下の存在だと怒っていた。民営化で晴れて労働者になることを喜べないとしたら、郵便局員も国民の上に立つというエリート意識、公務員の身分が支えになっていたのではないか。
 ――選挙の洗礼がない政治権力である上級公務員には、国民は公務員より馬鹿だとの発想でなく、本当に国民に奉仕しているとのプライドを持ってほしい。
 ――上級公務員は政治権力だから、下級公務員は組合運動を作って正論を吐けというのが、日本の官僚制に対する戦後の理論だった。いまは公務員は安定した身分をいいことに、特に外務省などは自分たちが表に出ないで好き放題しているように見える。
 ――公務員でも公務員の組合が言うべきことを言う、チェック機能を果たすことが大事だ。堂々たる組合運動を作ってもらいたいね。
 儲かっても儲からなくても、皆が自由にものが言えて、苦しいなりにがんばろうと社員の意思統一できる企業作りが、最大の突破口だ。その意味で自分だけ安全にというのではなく、労働組合は横のつながりを強めて、お勤め人のセーフティネットを再生しなければならないね。(拍手)







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