2008/11
環境と人口の接点からみえること(財)ジョイセフ


 



ライフビジョン恒例
チャリティオークション13th
今年のカンパはジョイセフへ
 
日 時
  2008年12月13日土曜日
  12:00-15:30
 
会 場
  京王プラザホテル東京新宿
  メインバーBRILLANT
  www.keioplaza.co.jp/rb/bl04.html
 
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 ミャオ族の集落が山の斜面に密集して立ち並ぶ(貴州省雷山県)
 健康教育と農村生活改善の集会に集まったミャオ族の村民たち(貴州省雷山県)





















 両親は出稼ぎに行き自分で食事の支度をする農村の子供達(貴州省三穂県)





























 村の小学生に寄生虫検査を行い、陽性者に駆虫し,便から出てきた回虫を瓶詰めし、実物教材として活用(貴州省道真県)


 農家でバイオガス施設の建設(貴州省雷山県)


 手作りで作成した村民広報教育用のバイオガスの合理的利用方法の掛け図(貴州省雷山県)


チャリティパーティ関連情報

新しい世界観、始まりの予感
高橋秀行/(財)ジョイセフ 国際協力推進部長
本間由紀夫/(財)ジョイセフ 中国事業部長


 2008年11月12日に2008年世界人口白書が発表された。世界の人口推計は67億4970万人、中国の人口は13億3630万人。中国の人口が世界人口に占める割合は19.8パーセント。地球上の人口の5人に一人が中国人である。
 10月に米国のサブプライムローンに端を発して起きた国際的金融危機は、視点を変えて世界の人口問題と環境を改めて考える機会となった。それは現在の国際金融システムのあり方のみならず、有限な地球資源を使い新しい需要を生み出し続け、拡大を追い求める近代資本主義と米国の資本主義覇権国としてのあり方の再検討を迫るものがある。
 現在のままの競争社会の中で、絶えず新しい需要を創り出す近代資本主義のシステムと供給サイドの限界は、40年から50年先に見えているように思える。所得のもっとも高い国々に住む世界人口の20%が個人消費総額の86%を占めている。一方、世界の最貧国の人口の20%が個人消費に占める割合は1.3%である。
 開発途上の国々の発展のペースが異なる過程で、消費を伴う物資的な豊かさは10年、20年、30年、50年、100年とずれて起きてくる可能性があるが、経済的に貧しい途上国や地域の人々に、物質的豊かさを求めるなということは同じ地球上の人間として、また倫理的にも言うことはできない。
 今後の世界観のひとつとして、有限な地球資源と、西暦2050年には地球上の人口が25億人増え92億人になる推計をふまえ、競争社会を越えた、人々が国境を挟んでも隣人と自然に共生する国際社会の必要性が、一層高まるのではないかと感じる。そして、現在の先進工業国型のライフスタイルの見直しと変更を迫られることもあり得ると考える。


中国の人口と環境
 その観点から、隣国の中国との付き合い方と見方は非常に大切である。
 人口13億人の中国は経済力も付け、国際的にも着実に政治経済的影響力を及ぼし始めている。中国の経済発展の過程で国内の環境問題も深刻になっている。その環境問題は国境を越え、日本など周辺の国々に及んでいる。
 中国は、1949年に中華人民共和国を成立させ、53年の中国最初の全国人口調査で総人口は6億193万人と発表された。その後、1964年は7億人、1969年8億人、1974年9億人、1981年10億人、1988年11億人、1995年12億人、2005年1月には13億人に達した。1億人増えるのに10年もかからず、このような人口急増が中国の社会経済の発展を阻害する大きな問題とされてきた。
 中国政府はこのような状況に対して、1970年代に入り人口・家族計画政策を本格的に推進し、1978年から国の憲法に「国家は家族計画を提唱し推進する」と定め、1980年代から一人っ子提唱政策を実施してきた。このような政策が功を奏し、中国政府は、1970年代からの人口・家族計画政策によって、約30年間で3億人の人口増加を抑制し、世界の総人口が60億に到達するのを3年遅らせることができたと報告している。


水と空気と経済成長
 中国の経済成長もこの数年、10%以上と著しい発展を遂げている。一人当たりの国内総生産は2007年に2400ドルを超えて、成長著しい上海市や北京市ではそれぞれ8500ドル、7300ドルを上回り、7000ドル足らずのブラジル、マレーシアを追い越している。一方、最も経済的に遅れた貴州省では900ドルにしかならず、上海の十分の一で、アフリカのケニア(846ドル)やザンビア(918ドル)とほぼ同水準で、都市と農村、東部沿海部と内陸部の経済格差は大きくなっている。
 人口増加抑制に功を奏していると自負している中国であるが、都市と農村の格差、地域間格差、労働就業問題、人口高齢化による社会扶養問題、医療保障の問題など様々な問題を抱え、資源確保や環境保護の問題も深刻になっている。
 膨大な人口数と著しい経済成長のために、農業、工業、エネルギー生産のために必要とする水の供給量も多くなり、水不足の問題をもたらしている。工業化によってさらに水不足は深刻で、北京市、天津市、上海市、遼寧省、山東省、江蘇省などの下流域の、工業化が進んでいる地域は極めて深刻である。工業化が進んでいる地域周辺の河北省などでは、大都市に優先的に水を供給することを強いられ、そのために水不足に陥っているとの報告もある。
 また、工業用水や生活用水による水汚染も次第に大きな問題となっている。飛行機で上空から、北京、天津、上海市の周辺を見下ろすと、川や近海に帯状の色の異なる流れが至る所で見られ、工業用水の排水で汚染されていることが目に見えてわかる。経済が遅れた貴州省の農村でも、生活用水で汚れ、藻が大量発生した河川や湖沼を見ることも多い。
 工業化による大気汚染も大きな問題となっている。日本から北京に飛び、多くの日本人が最初に気づくのが、青空の見えないスモッグが立ち込めた大気汚染である。北京オリンピック開催期などでは、周辺の工場の操業一時停止により青空が広がったが、それも一時的な措置で再び元に戻ってしまうことは予想できる。


日本の工業化経験を生かす
 中国政府も、このような状況に対して様々な対策を講じているが、目に見える効果を得られるような解決策を見出すことは容易でない。
 日本も1960年代には、工業化による高度成長をはかり、水や大気などの汚染などの公害問題が深刻化したが、様々な公害対策措置を講じ、現在では見違えるほど河川や大気がきれいになった。行政が効果的な対策を講じただけでなく多くの人々が、経済成長だけを求めるだけでは健康で快適な生活を実現できないことに気づき、多くの国民が環境保護に関心をもち、家庭や地域でごみの分別を行い、ボランティアで清掃活動に参加している。
 中国は経済優先で公害対策はまだ充分でなく、地域住民の環境保護に対する認識もそれほど高くない。しかし徐々にではあるが、地域住民も自分の生活環境に対して、健康的で快適な生活環境を確保することに関心を持ち始めている。
 その一つとして、ジョイセフは1984年から25年間、中国で健康教育と保健サービスによる人口・家族計画プロジェクトや貧困対策プロジェクトを推進して、地域住民の生活環境改善に対する関心や行動の変容を引き出すうえで大きな効果をもたらしている。
 日本は終戦直後、1940年代後半から50年代にかけて回虫などの寄生虫感染が人々に蔓延していたが、検便や健康衛生教育を実施して、住民たちに自分たちの健康について自ら関心を持たせただけでなく、人々に蚊やハエの撲滅運動やトイレや飲料水、台所の改善などの行動を促すことにもつながった。
 中国のプロジェクト地区の農村の多くは、プロジェクト開始時には、寄生虫感染率が50%〜80%という高い状況を呈し、環境衛生も劣悪である。中国でも、地域住民は自分や家族の健康にとって目に見えて効果があるとわかれば、その活動に積極的に参加するようになり、生活環境改善、環境保護についても関心を持つようになる。
 子供のお腹にいた回虫を駆虫薬で駆除し、再び寄生虫感染しないためには、トイレや飲料水の改善をする必要があるとわかれば、環境衛生改善をするようになる。
 トイレの改善は、寄生虫卵を死滅させるためにし尿を発酵させ無害化をはかったり、蚊やハエなどが発生ように便器やし尿取り出し口に蓋をとりつけたりし改善する。
 その中でも、農村で推進しているバイオガス式トイレへの改善は、し尿の無害化をはかるだけでなく、発酵させて発生したガスを炊事や照明の燃料として利用する。それは燃料費を節約させるだけでなく、薪の使用を減らし森林などの伐採を少なくし、土壌の流失を防ぎ、女性に負担を強いている薪とりや炊事の労力や時間を軽減することができる。バイオガスから出てきた液肥は安全で肥料効果の高い有機肥料として農作物栽培に利用することもできる。


ジョイセフの生活環境改善運動
 中国は、第11次5ヵ年計画(2006年〜2010年)の中で「社会主義新農村建設」を打ち出し、生産の発展、生活のゆとり、農村の文化的気風づくり、環境整備、民主的管理を掲げた。具体的な活動は、各地域の状況に基づいてモデルプロジェクトとして内容を決め推進されることになっている。
 この計画が打ち出されて2年が経ち、中国の農村発展研究の専門家から問題点も指摘されている。従来の貧困対策の如くインフラ整備に重点が置かれ、多額の資金を必要とし、住民参加が充分になされていなく、広大な農村に普及させていくには困難があるとのことである。
 このような状況に対して、日本の1950年代頃から始められた農村部における新生活運動や生活改善活動は、行政と住民組織が協力し合って多額の資金をかけずとも生活改善を進めた多くの経験があり、中国の新農村建設に役立つものと思われる。人々が自分たちの地域を住み良い場所にしたいという気持ちが強くなれば、地域の生活向上や環境保護の活動を自ら推進していくようになる。
 日本は戦後の困窮した時期の人口急増の時代から、高度経済成長を経て人口増加を抑え、現在では少子高齢化問題に直面し、様々な問題や課題に対し試行錯誤してきた。この日本の経験や教訓は、人口や環境の問題の悪化を極力回避する有用な方法や手立てを中国に提供することができる。
 農民にとって都会への出稼ぎは家族の収入を稼ぐために当面必要であっても、最終的には家族が生活する故郷である農村の生活環境や生活条件を良くしたいという気持ちが強くなれば、健康や生活設計のための家族計画にも関心を払うようになり、人口増加の問題も徐々に解決していくものと考える。
 ジョイセフは、日本の草の根レベルの地域保健や生活向上の経験や方法を中国に紹介し、自分たちの力で生活環境を改善するよう促し、中国の農村の人々が健康でしあわせな生活が送れるよう支援する日中協力を今後も推進していく所存である。
 中国は世界の人口大国として、将来の発展の方向性と中国の人々の行動様式は、地球上の環境問題とも密接に連動して、計り知れない国際的影響を及ぼす存在になっている。







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