2013/08
増大する医療費にどう対応するか石山浩一


 昨年夏の3党合意によって設置された、社会保障制度改革国民会議の報告書概要が報道されました。
 医療費の費用分担がその中心です。
 2010年度の国民医療費は37兆4202億円です。15年前の1995年度は26兆9577億円でした。15年間で10兆4625億円、1.39倍も増加しています。増え続ける医療費は、国民にとって大きな負担です。
 財政と社会負担の関係ではこれまでも、いくつもの事例があります。米自動車産業破綻の大きな要因に、社会保険負担の重さが挙げられています。日本でもJALの再建のために年金給付の削減が行われました。また北海道夕張市の財政破綻の要因の一つにも、医療費負担があると言われています。
 社会保障制度を放置すれば一企業や地方自治だけでなく、日本の財政までもが破綻する危険性があります。高齢化に伴う国民医療費の増加にどう対応するのかが問われています。
 
社会保障負担とデトロイト市の財政破綻
 7月19日、米ミシガン州デトロイト市が米連邦裁判所に破産を申請したと報じられました。破綻の原因は185億ドルともいわれる莫大な借金と、自動車産業の衰退による市の歳入の減少によるものです。
 デトロイト市は米自動車産業の象徴として繁栄し、ゼネラルモーター(GM)、フォード、クライスラーの3大メーカーの本社等がありました。そのGMが2009年に経営破綻、続いてクライスラーも、日本の民事再生法に相当する連邦破産法の適用を申請しました。その4年後の、市の財政破綻でした。
 市の財政破綻のもうひとつの要因として、自動車産業全盛期に行われた、公務員を含む社会保障の充実による負担増が挙げられています。しかし年金や医療等の社会保障の負担削減については受給者が反対し、さらに州地裁が、社会保障費削減はミシガン州憲法に違反するとして、削減の執行停止を命じています。デトロイト市の再建は社会保障費の削減にかかっていますが、4年前に破綻したGMの再建と同じ道をたどりそうです。
 GMの再建は新生GMが旧GMから必要な資産を買い取ることや、米政府が約301億ドルの追加資金の用意をする等、政府の支援がありました。同時に全米自動車労働組合は退職者の医療費負担軽減に同意した結果、GMは立ち直りました。
 デトロイト市が公務員や自動車産業退職者の社会保障をどこまで削減できるかが、焦点と思われます。
 
夕張市の破綻にみる病院の実態
 かつて炭鉱の町として繁栄した夕張市は、「石炭から石油へ」というエネルギー政策転換によって多くの鉱山が閉鎖され、1990年には夕張市から炭鉱がなくなりました。これにより夕張市は、炭鉱会社が設置した病院を市立診療所にと40億円で買収し、炭鉱住宅を市営住宅にすることや関連する水道などのインフラも買収しました。さらに市は「炭鉱から観光へ」のスローガンのもと、テーマパークやスキー場の開設、映画祭のイベント開催を行いましたがついに、投資の負債だけを残して、財政破綻となりました。
 財政破綻した後、スカウトされて夕張市立診療所の所長となった村上医師はこう語っています。(文芸春秋 8月号)
 ――外来では患者から「あの薬をくれ」「注射をしてくれ」と言われる。日本人の風邪は平均1週間で治るのに、風邪薬は三食×30日分欲しいと言われる。「そんなに飲み続けないでしょう?」と尋ねたら「近所に配る」という。「この薬代は、あなた方の子や孫が払っている」と言って出さないと、「新しい医者は風邪薬も出さん」と悪い評判が立つ。夕張市が破綻した理由のひとつに、こうした市民の「たかり体質」があったのは間違いありません。――r
 これは一地方自治だけではなく日本全体に言えそうです。
 
高齢者の意識が日本の財政を救済する
 2008年に老人保健制度の問題点を改善するため、後期高齢者医療制度が発足しました。この制度への反発のうち印象に残っているのは、「年齢で区分するのはおかしい」「日本の経済成長に貢献した今の高齢者を優遇すべきだ」などでした。
 しかし当時も今も、70歳以上の医療費自己負担は1割(高所得者を除く)で、それ以下の年齢者は3割となっています。優遇されていることに対してはちゃっかり、口を噤んでいるようです。
 今度の社会保障制度改革国民会議の案では、社会保障を「年齢別」から「経済力別」負担に原則転換と記載されています。そうした主旨であれば70歳以上の医療費負担は年齢に関係なく、3割負担とすべきでしょう。但し、経済的弱者には年齢に関係なく救済すべきです。果たして実現ができるのか、否、実現させることが今回の報告書を生かすことになるといえます。
 国民も夕張市の村上医師が話されたような「たかり体質」を改善することです。調剤薬局のごみ箱を覗くと患者が捨てた薬が山ほど溜まっている、それは複数の病院にかかっていると胃薬などは「あっちでも同じものをもらっているから」と、患者が勝手に捨てていくと言うのです。
 「本当は併用しないといけない薬もある。自分で判断するのは危険な上に、ひどいムダ使いです。日本の薬剤費は年間8兆円以上ありますが、捨てられるのが数兆円に相当するかもしれない」。(前出 村上医師)
 我家の冷蔵庫にも飲まれない薬が眠っています。受診する側や診察する側の問題は、今回の概要には記載されていません。無駄な診察や薬の乱発を食い止めるのも、医療費削減になると考えます。


石山浩一 
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/


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